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09




『いなくならないで…!ずっとわたしの傍にいて…っ』

こいつが再び気を失う前に俺に言った言葉をずっと頭の中で反芻していた。

好きな奴にあんなこと言われて嬉しくねェわけがない。今すぐにだってナマエが俺をどう思ってるのか問い詰めたいくらいだ。
とは思っても、熱出して寝込んでる彼女を叩き起こしてまで聞くような真似はさすがにしないが。

だいぶ落ち着いた呼吸音を鳴らして眠りについているナマエの頬を手の甲でそっと撫でる。


「…期待、しちまうだろ」


―――おまえも…ナマエも、俺と同じ気持ちだと。


□ □ □



「これ、ロシナンテが?」
「………おう」


2時間後。
目を覚ましたナマエに、生まれて初めて作ったお粥(たぶん)を見せたら目を大きく見開いていた。

料理なんざしたことねェし、ましてやこっちのキッチンの使い方もあまり分からねェ。
おまけに俺は極度のドジだしで色々手こずったが、見た目はそこまで悪くない…はずだ。

味の保証もできないが、食べるか?と続けて聞けばナマエは小さく頷いて皿の中身を掬う。


「…………」


ひとくち食べて、それから無言で食べ進めるナマエにどんどん不安になっていく。

なんで何も言わねェんだ!?…まさか俺に気使ってマズイって言えないでいんのか?いやそうか、ナマエは優しいやつだからそれも十分にありえる。


「お、おい…ナマエ。無理して食わなくても、」

「――…おいしい」


は、と思わず変な声が出た。


「おいしいよ。ありがとう、ロシナンテ」


泣きそうで嬉しそうな表情をしたナマエが、ふわりと微笑んで俺を見る。


「、………ッ」


――…ああくそ、もう無理だ。
ナマエが好きで愛おしくて、どうしようもねェ。

何も考えず、考えられず。ベッドで上半身だけ起き上がらせていたナマエを、身体に障らないようになるべく優しく抱き締めた。
ロシナンテ、とナマエの口から紡がれる声ですら俺の胸を締めつける。


「好きだ、ナマエ…っ!」


ピクリと腕の中でナマエが反応した。
そして胸を小さな力で押されて身体を離したら、伸びてきた細い腕に今度は俺が抱き締められる。


「それ、本当?」
「…本当だ」
「その”好き”は、恋愛感情?」
「っ当たり前だろ…!」

「―…わたしも同じ。わたしも、ロシナンテが大好きなんだ」


一瞬、夢かと耳を疑った。
だがそれは、恥ずかしそうに頬を赤く染めてはにかんで笑うナマエの表情を見た途端に現実味を帯びて。


「〜…っナマエ!」
「うわっ。ちょっと、!」


感極まって、ナマエを駆け布団ごと抱き上げる。
きっと今の俺は破顔しまくりでだらしのねェ顔してるんだろうが、嬉しいもんは嬉しい。

ビックリしたでしょう!と少し怒ってる表情すらも今は愛しくて。本能のままに、俺を見上げるナマエにグッと顔を近付ける…が、口に感じた感触は予想していたものとは違った。


「…なんだその手は」
「だめ。風邪うつるし」


自分の口を手で覆い、眉間に皺を寄せるナマエ。

風邪なんかむしろもらってやってもいいくらいだ。それでナマエのが治るんなら尚更。
…まあ、そう言ったところでこいつがそれに頷くとは思わねェから言わないがな。


「わたしが治ってもロシナンテが風邪にかかったら、いつまでもキス…できないだろうし。わたしもしたいから、あんまり長く我慢するのは嫌っていうか…」


ズキュン、バキュン。
どっちの効果音でもいいが、俺はナマエの可愛すぎるそれに見事にハートを打ち抜かれた。

はあー…と大きくて深い幸せの溜め息が出る。


「―…愛してるぜ、ナマエ」
「っ………」


俺は自分で思う最高の笑顔でそう伝えた。

元の世界のこと、俺はいつかそっちへ戻っちまうかもしれないこと。
色々と問題はあるだろうが今は、ナマエと両想いになれたこの幸せにただ浸っていたいと思った。



世界を超えた愛
(おいナマエ、いつまで笑ってんだ!)
(だ、だって…っその笑顔は変!)

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