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08




ナマエへの気持ちを自覚した時から、俺はどっかおかしい気がする。

ナマエと目が合うだけで心臓がうるせェし、触れようもんならもっとそれが酷くなって死にそうにすらなる。
だが、近くにいればどうしようもなく触れたくなっちまうし…色々と苦しくてナマエと少し距離をとって自分を落ち着かせることにしてたんだが。

いつも通りにできないことに俺自身が耐え切れなくなって、変に距離とるのヤメだ…と決めた次の朝。
ナマエが1人で出掛けたことを知った俺はすぐに家を飛び出してとにかく彼女を血眼になって探した。

やっと見つけた先で見知らぬ男に泣かされているナマエを見て、ブワリと怒りに支配されて、気付いたらそいつをぶん殴ってた。


□ □ □




「―…うん、もうほぼ塞がったね」


ニコリと笑って俺を見上げるナマエに胸が高鳴るのは日常茶飯事。

ヴェルゴやドフィにやられた傷を治療してくれたナマエは、今のようにこうして定期的に傷の具合を見てくれていた。
銃弾は傷痕として残ってはいるが完全に治っていて、内臓が傷付いているかもしれないと大きい病院へ連れていかれて検査をしたがそっちももう問題ないらしい。

ナマエには本当に、色々と世話になっりぱなしになっちまってんな…情けねェ。


「後遺症もないし、元の世界に戻ったら安心してローと会えるね」


サラリと言われたその言葉に、俺はハッとする。

そうだ。俺は、この世界の人間じゃあない。
そもそも元の世界に戻れるかなんて分かりゃしないが、ローの無事を確かめるためにも俺は戻るとあの時決めたじゃねェか…。

だが今はどうだ。ナマエのことをどうしようもなく好きになっちまって、こいつと…もう会えなくなるなんてことは考えられねェし考えたくもない。
このままナマエの傍にずっと居たい気持ちと、ローへの気持ちが入り混じって。自分がどうしたいのか分からなくなった。


「俺に、元の世界に戻ってほしいか…?」


入り乱れた思考の末、口をついて出てきた言葉に後悔する。
カチャリ、と医療器具を片付ける手を止めて俺を振り返ったナマエの切なげで何かを堪えるような表情に息を呑んだ。


「…戻ってほしいよ」
「………ッ!」
「ロシナンテが死んだと思ってるローに、早く会ってあげてほしいからね」


―…きっとすごく喜ぶと思う。
ナマエはそう続けて、控えめに…いや、”無理に”笑った。


「…なァ、ナマエ」
「ろ、ロシナンテ…?」


さっき彼女から渡された上に着るはずの服をバサリと床に投げて、その細い手首をグッと掴んだ。

瞳を潤わせる涙と、紅潮した頬。
キュッと噛まれた下唇。
…一体おまえは、どんな気持ちで俺を…そんな表情(カオ)で見てる?


「…教えてくれよ、ナマエ」


顔を近付けて耳元でそう囁けば、ふと俺の頬とナマエの頬が触れる。
ナマエのそれは驚くほどに熱を持っていて、もしかしたら彼女も俺と同じ気持ちなのかもしれないと淡い期待が胸に灯った。


「ロシナンテ、わたし……」


手首を解放してそのままギュッと抱き締めたらナマエの腕が俺の背中に回り、耳元で吐息交じりに名前を呼ばれば、身を焦がされるようなジクジクとした何かが湧き上がってくる。

このままじゃ、マズイ。
まだナマエの気持ちを聞いてねェってのに、ここで手を出しちまうわけにはいかねェ…!
なけなしの理性をフル稼働させて、ナマエをゆっくりと自分の身体から離した…が。


「―…ナマエ?」
「っはあ、はぁ…っ」
「ッおい!しっかりしろ…!」


身体を離した瞬間にぐったりと後ろに倒れそうになるナマエを慌てて引き寄せて初めて、彼女の異常に気が付いた。


「おま…!熱あるじゃねェか…っ!」


呼吸を荒くさせて汗をかき始めるナマエの額に触れると、その熱さに思わず手を引っ込める。

くそ…!何で気付かなかったんだよ、バカか俺は!!
こんな状態のナマエに気付くことなく、手を出すとか出さないとか考えてた自分が恐ろしい。

俺はすぐにナマエを抱き上げて彼女の部屋へと駆けた。