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06





初めて繋いだナマエの手は思ったより熱くて、そんで…俺の手なんかより小さかった。

ナマエの楽しそうに笑う顔を見た時、また新しい感情が胸に宿ったのが分かる。
キュッて胸がやんわりと締めつけられて、どうしようもなくナマエに触れたくなるような。

この感情の名前を、俺はまだ知らない。


□ □ □



水族館の中にあるレストランで休憩がてらの昼飯をとることにした俺とナマエ。

チラチラと俺を見てくる周りの視線も気になるが、一番気になるのはナマエを見る男共の目だ。
ここに来る途中、俺がトイレに行ってる間にナマエはナンパされてたみてェだし…。

くそ。変な目でナマエのこと見てんじゃねェよ。


「チッ……」
「ロシナンテ?それ、不味かったの?」
「え、あ…いや!美味い美味い…!」
「ふーん。それならいいけど」


苛立ちに任せて無意識に出た舌打ちにナマエが反応して、慌てて弁解するが彼女はあんまり納得できてないのが分かった。

ドジった。雰囲気悪くしちまった。
どうにかして機嫌を直してもらわないとと思ったが、ナマエが『これ美味しいよ。食べてみる?』とケロリと言い放ってきて力が抜ける。

あんま気にしてないみたいで良かったぜ…。


「っきゃあ!この子吐いてる…!!」
「ちょっと、やだもう!」
「うわ!なんだよ汚ぇな…っ」


ガシャン、と食器同士がぶつかるような音と騒ぐ声が聞こえて俺もナマエもそっちに視線を向けた。

10歳いくかいかないかくらいのガキが、ゲェゲェと苦しそうに嘔吐を繰り返していて、それを周りの大人達が鼻や口を覆いながら遠巻きに見ている。


「…ド畜生がッ!」


ふざけてんのかあいつらは…!!
目の前でガキが具合悪そうにしてるっつうのに誰も駆け寄ることもせず、近くにいる親ですらあいつに寄り添うこともしないで立って見てるだけ。

カッと頭に血が上っちまって、椅子をぶっ倒すほど勢いよく立ち上がり、ガキのところに行こうとすればそれより早く俺の前をサッと駆けていった奴がいた。

ー…ナマエだ。


「大丈夫かい?ゆっくり息をして?…そう。全部吐いちゃいな」
「う、うえ…っんぐ!」


優しく語りかけて、子供の背中を撫で続けるナマエ。


「………っ」


まるで聖母でも見てるかのようなその光景に魅入っちまってたが、状況を思い出して俺もナマエと子供の側へと駆け寄った。

ロシナンテ、このままこの子の背中さすってあげてて。

そう言ったナマエに見つめられ、俺は無言で頷き、子供の背中をなるべく力を入れ過ぎないように撫でた。


「…どういうつもり?」


不意に聞こえてきたのは。
聞いたこともないくらい低く、そして確かな怒りを宿したナマエの声だ。


「自分の子供が目の前で吐いてるってのに、何もしないで見てるだけってどういうこと?」
「あ、いやだって…!吐いてるのに近付いたら感染したり…ッツ!?」


バチン!と、聞こえたのは破裂音。


「自分の子供の心配よりも自分の心配しかできねえんなら親なんかなるんじゃねェよ…!お前みたいな親のもとに産まれた子供が可哀想だ」


普段のんびりしていて温和なナマエから出た乱暴で攻撃的な言葉には驚いたが、彼女の言ってることに1ミリも間違いはないことは分かってる。

俺は吐き気のおさまった子供をこの騒動を見ていた近くの定員に託して、俯いて何も喋らなくなったナマエの手を引いてその場を離れた。