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04





俺がこの世界に来た日の翌朝。
ナマエの部屋の床に布団を敷いてもらって、そこで寝ていた俺は物音で目が覚めた。ふと隣のベッドを見てみれば、既にもぬけの殻。

枕元に置いてあった時計を見ると、短針は5、長針は12を示していた。


「朝、はえーんだな…」


呟いて、まだ眠気はあるが俺が二度寝するわけにはいかねェと気怠い身体を無理やり起こしたのだった。


□ □ □



朝飯を食い終えて、仕事に向かうというナマエの後を慌ててついていけば彼女の髪が寝癖だらけでクルクルと跳ねまくってんのが目に入った。
今のこいつの格好も、白のワイシャツにスキニーのジーパン。その上に白衣を羽織った、なんとも言い難いモンで。

ナマエは美人だと思う。控えめに言ってもだ。…美人なんだが、自分の容姿をさして気にもかけていない珍しいタイプの美人なのかもしれない。


「なあに。ジロジロ見て」
「あ。いや、寝癖くらい直して出掛けた方がいいんじゃねェかと思ってよ…」
「ゲッ。直すの忘れてた…まあ、いっか。診療所にアイロン置いてあるし、着いたら直すよ」


なんだ、故意的に直してなかったわけじゃねえんだな。
妙に安心した俺は、寝癖を摘まんで少し口を尖らせるナマエを見てブハッ!と吹き出した。


「ちょっと…なに笑ってるのさ」
「くくく、悪い悪い。そこまで酷い寝癖見たの初めてでな」
「失礼な!仕方ないでしょ、癖っ毛なんだから」


拗ねた様子のナマエの歩みが早くなったところでそもそもの俺の歩幅がデカいから、追いつくどころか追い抜きく勢いだ。
それにまた悔しそうにムッとした顔をしてまた早歩きをし始めるナマエに、また俺は吹き出しちまった。

美人なのに可愛い、とかちっと反則。


□ □ □



「口大きく開けて。そう、あーん」
「あー…ん」
「コラ。ん、まで言うと口閉じられちゃうでしょう」
「だって先生があーんって…」
「じゃあ、あー」
「あー…」


ナマエが医者だというのはどうも本当らしい。
いや、信じてなかったわけじゃないが…こうして実際に子供の診察をする彼女を目の当たりにしてそれを実感した。

ていうか、子供の母親にすげえ見られてるんだが俺。
そりゃナマエが最初に俺に”外国の人”と言ってきたように、この国の人達とは毛色が違うから見られるのも分かるが…そんなに見てくるか?


「よし。喉は腫れてないみたいだし、咳出たのは風邪の初期症状かな。酷くなる前に一週間分、薬出しとくね」
「ありがとうございます、先生。あ、あのー…その方は?」
「ん?ああ、わたしの助手。今日からなんだ、よろしくしてやってね」


紙に手書きで何かを書き終えたナマエは俺を見るから、母親には小さく会釈をしてぎこちなく笑いかけた。
それからその場で会計を済ませた親子が帰り、俺は息を吐く。


「子供を助けたかったと言っていたからてっきり扱いには慣れてると思ったけど、そうでもないんだね。ロシナンテ君?」


さっき診察に来ていた子供の服を捲るときに緊張しちまってたのがナマエにはバレていたみたいで、彼女はからかうような口調で言ってきた。


「あー…。いやローは、普通のガキとは違ったからなァ…」


僅か10歳で国を滅ぼされ、家族を亡くし、天涯孤独の身となって”全てを壊したい”と憎しみしか宿さない瞳でドンキホーテファミリーへとやってきたロー。
言い方は悪いが、海賊もいない危険も少ないこの平和な国で育った子供とローとでは比べられねェ程の生きてる重みの”違い”がある。

グッと握った拳がズキリと痛む。


「ロー、」
「……っ!」
「っていうんだね、君が助けたかった子供は」
「………あァ」


それ以上、ナマエが何かを俺に聞いてくることはなく。青い蓋の小さい入れ物を俺に投げて渡すと、『手に塗っておきなよ』とだけ言う。
言われて右手を見てみれば、爪が食い込んで皮が剥け、血が滴り落ちそうになっていた。


「…………」


ローは、あの実の能力で病気を治すことができたのか。無事に島から抜け出して、今は元気にしてるのか。
それを確かめるためにも俺は元の世界に戻る必要がある、と軟膏を塗る前にもう一度、拳を握った。