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02





拝啓、俺が死んだと思ってる皆へ。
俺は今生きてて、どうやら異世界に来ちまったらしい。


□ □ □



「俄かには信じられないけど、そう考える他ないよ。わたしの部屋にいきなり現れた理由も、君の話す海賊とか海軍とかのことも全部さ」


トントンと人差し指でテーブルをノックしながらそう話す女は、ナマエという。
彼女の考えが合っているとすれば俺は別の世界に来ちまったということらしいが…やっぱり俺、あのとき死んだんじゃねェかと思う。

死んだから、別の世界に飛ばされた…。人は死んだら天国でも地獄でもなく異世界に連れていかれるのかもしれねェなとか考えた。


「どうするの?これから」
「…あー。んー…どうしようもねェ、な…」
「違う世界から来たとなれば衣食住ももちろんないわけでしょう?」
「そ、そうなるな…」


今の俺にはこの身ひとつ以外何もない。ナマエの言う通り、一文無しの俺には衣食住の当てもあるわけもない。……考えれば考えるほど、マジでどうしようもねェ。
ナマエに治療してもらったおかげで生き長らえた命だが、ここで外にほっぽり出されちまったら俺は…野垂れ死ぬこと間違いなしだろう。


「はあ…仕方ないな。いいよ、分かった」


大きな溜め息をついたナマエが髪をかき上げて、スッと切れ長の瞳を俺に向ける。
…よく見たら、右と左で目の色違うんだな。そんなことを思いながら俺も彼女を見つめ返せば、形の良い唇が両端に上がって弧を描いた。


「君、良くも悪くも怪我人だし出ていけなんて言えないよ。異世界の人と一緒に住むなんて面白そうだし、ドンキホーテさんさえ良ければ元の世界に戻れるまで此処にいたら?」

「………いいのか?」


俺にとっては願ったり叶ったりの提案だった。

…だがよく考えてもみろ。相手は俺よりも若いだろう女で、元の世界に戻れるかも分からねェ間ずっとこいつの世話になるなんてよ…そんなヒモ状態、男としての威厳もプライドもありゃしねェじゃねーか。

とは考えてみたものの、そんなちんけなプライドに邪魔されてここでナマエの厚意を受け取らないのはさすがに浅はか過ぎる。


「なあんか色々考えてるところ悪いんだけど、コーヒー零れてるよ?」
「は……、うおっ!?」


彼女に言われて、気付いたら手に持っていたマグカップから零れたコーヒーが俺のズボンに染みを大きな染みを作っていた。

カッコつかねェな、俺…。
恥ずかしいやら情けないやらで顔に熱が集まってくるのを、なるべくナマエに見られないようにとフードを深く被る。


「……本当にいいんだな?俺がいても」
「良くなかったら、ここに住んでいいなんてわたしから言わないよ」
「けどなァ…ただ世話になるだけなんざ俺が俺を許せなくてよ…」


思わず尻つぼみになっちまったが、本音だ。
ていうか俺、悩みすぎだろ…!ここを追い出されても困るのは分かり切ってることなんだ。もう素直に世話になるって一言言えばいいだけじゃねェか…!

そう思ってたら案の定、”めんどくさい男だなあ”とナマエに言われちまった。ああもう、印象最悪だ。


「そんなにヒモが嫌ならさ、わたしの仕事の手伝いしてくれない?」
「…仕事?おまえ何の仕事してるんだ?」

「ん?―…お医者さん」


医者ァ!?と声を上げたら、ナマエはニッと笑った。



お世話になります
(ドンキホーテさん、これからよろしく)
(…おう。ロシナンテでいいからな)


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