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16




時計台の中に姿を消していったナマエ。
ザワザワと胸騒ぎのような感覚を抱えながら早く顔を見せてくれと切に願っていれば、大きく開かれた時計台から現れたのは大きな鳥。

その鳥が足にぶら下げているのは大きく黒い塊で、あれが時限式の砲弾なのだと理解する。
そしてその鳥の背中に乗っている小さな影は、見紛うこともない愛しいナマエの姿で。


「――…ナマエ、何して…ッ、!」


隣でそう声を漏らすナミを見たら、周りにいたサンジ、ゾロ、ウソップ、チョッパーも同じような顔をして空に視線を向けていた。

ナマエ…、と心の中で呟いてみたら鳥の背中に乗る彼女と目が合ったような気がする。
そして、ナマエの能力によってあの大きな砲弾が水に包まれた瞬間。

―――ドォオオオオン!!

砲弾が制限時間に到達し、水の中で大きな音を立てて爆発。水の圧が衝撃を吸収してくれたらしいがそれでもその爆発による爆風は凄まじく、小さくなったチョッパーが吹き飛ばされていくのを捕まえて小脇に抱えた。


「雨だ…」


さっきまで争っていた奴らがガチャガチャと音を立ててその手から武器を手放す。
爆発によって砲弾を包んでいたナマエの水が宙を舞い、誰かが呟いたようにまるで雨が降ってるみてェだ。


「――ロシー…っ!」
「ッ、ナマエー…!?」


耳に入ってきた声に弾かれたように上を向いた。
ナマエが降ってきてる!?まるで天使…って、んなこと思ってる場合じゃねェ!!

俺はすぐさま両腕に風を纏わせて、こっちに向かってまっすぐ降ってくるナマエに手を伸ばす。
ナマエの周りに凪いだ風のおかげでスピードを落としてふわふわとゆっくり舞い降りてきたナマエをそのまま抱き留めてギュッと掻き抱いた。


「…っふざけんな…!無茶し過ぎだ…!」
「ん、ごめんロシー。でもあの砲弾、なんとか出来て良かった。あと、受け止めてくれてありがとう」


そんなもん受け止めるに決まってるだろ。
もしナマエが俺んとこじゃなくて別の奴の所に落ちてこようとしてたって俺はそこまで受け止めに行ったさ。

ポタポタと降り注いでいた水が絶えると、地に落ちた武器を再び構えようとする反乱軍。
こいつら性懲りもなくまだ戦うつもりか…!

思ったのも束の間、再び武器を手に取った反乱軍たちは国王軍へと襲いかかり。
今の静寂はなんだったのか、また争乱が始まった。


「戦いを、やめてください…!!!」


何度も何度も、ビビが叫ぶ。
俺の腕からヒョイっと下りたナマエは、武器を向け合う奴らの方に無言で向かっていき、そいつらを殴った。


「っ、戦いをやめろって言ってんだ…!ビビの声が聴こえないの…ッ!?」


いつか見た覚えのある、ナマエのブチ切れ。
ナマエの涙を滲ませた瞳と怒りと悲しみに染まった表情が目に入れば、俺の胸が痛み出す。


「あんた達も何ボーッとしてんのよ…!ナマエみたいに殴っても蹴ってもいいから反乱を止めるのよ!!1人でも多くの犠牲者を減らすのよ…ッ!」


ナミに叱咤されて動き出した俺たちは、ナマエに続いて戦ってる奴らを止める為に戦場の中へ。
ナマエは大丈夫かとチラチラと見るが、軽い怪我は見当たるものの次々と男共を地に伏せさせていた。

腕っ節が強いのは知ってたが、怒りがバネとなっている今のナマエは更に強くなってるような気がする。
あえて能力を使わないのはきっと相手が“敵”じゃねェからなんだろう。


「オイあれ…!あれ見ろ!!」


サンジの声にバッと顔を上げる。
どこからともなくクロコダイルと思わしき男が飛び出してきて、ドゴォン!と音を立てて地面にめり込んだ。


「―――あいつが勝ったんだ!!!」


ボロボロで気を失っている様子のクロコダイルに、ルフィの勝利を確信して笑みが浮かぶ。
ナマエも表情を穏やかにさせて、俺と目が合うとやっとフワリと微笑んでくれた。

そして、ルフィの勝利はビビの声を運ぶ。


「これ以上、戦わないでください…ッ!!」


ヒュー…と一陣の風が吹けば。
ポツリ、ポツリと。ナマエの水じゃない、正真正銘の“雨”が次々と天から降り注いできた。

喧騒の中に響いたビビの必死な叫びに、そして降り注ぐ待望の雨に、広場にいた全員が空に目を向ける。
さっきまでナマエを背中に乗せていた大きな鳥が、今度はビビを背中に乗せて広間の上空を飛んでいた。


「ビビの声が、届いた…」


ナミとナマエがほぼ同時に同じことを呟く。


「ビビ様…!」
「ビビ様だ」
「ビビ…!」
「王女は不在のはずでは…」

「今降っている雨は、昔のようにまた振ります。悪夢は全て…終わりましたから!」


そして、この反乱がクロコダイルによって仕組まれていたことだと知った反乱軍は今度こそ本当に武器を捨て。
その戦いに、終止符を打ったのだった。