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黒髪をオールバックにして、顔には横一線の傷痕。
威厳溢れるクロコダイルの纏う雰囲気に気圧されてゴクリと息を呑むけど、脳裏にチラつくビビの涙と苦しそうな表情にグッと目の前の格子を握った。


「あれ?ナマエおまえ…能力者なのにその格子効いてねェのか?」
「ん。今なんて、」
「バカ野郎ウソップ!余計なこと言うんじゃねェ…!」


隣の檻からわたしに話しかけたウソップがロシナンテに怒鳴りつけられて、焦ったように口を覆っている。
わたしが能力者であることと、今握っているこの格子に一体何の関わりが?
そう思って首を傾げていたら、ピリッと肌に伝わってきた何かに気付いてバッと顔を上げる。


「―…ほう?海楼石の効かねえ能力者たァ初耳だな」
「ッ………!」


低く、地を這うような声の主と目が合って…身体が動けなくなった。

強くて実力のある海賊しか加入できない七武海の1人なだけあって、こうしていざ前にしてみると圧倒されてしまう。…ぶっ飛ばせるかな。いや、ぶっ飛ばさないと。

わたしの方へとゆっくり近付いてくるクロコダイルを強く見据えたらルフィやロシナンテが何か言っていたけど、今のわたしには目の前の悪党にしか意識がいってなかった。


□ □ □



格子越しにわたしの目の前まで来たクロコダイルを睨み上げると、彼が口に咥えている葉巻から白い煙が立ち上り、それが顔にかかる。


「何の実だ」
「…は?」
「何の実を食いやがった」


素直に答えようとしてしまってからハッとして口を噤むと、クロコダイルの片眉がピクリと上がった。

あーもう、この人すごい極悪面じゃないか。よくもまあこんな顔してる彼をアラバスタを救ってくれたヒーローだなんて国民の人も思えたよね…。


「おいワニ!ナマエはミズミズの実なんか食ってねェぞ!!」
「「言うなァ…!!!」」


ナミとウソップがルフィの頭を思い切り殴り、ルフィは頭から煙を出して地面に埋まる。
その時わたしの目に映ったロシナンテは、少し顔色が悪く、何かを懇願するように不安げな表情をしていた。


「水………」


呟いて、さっきよりも怖い顔になるクロコダイル。
そしてガシャンと音がしたかと思えば、目の前の格子が無くなっていき、わたしとクロコダイルを隔てる物が何も無くなった。

え、と声が漏れた次の瞬間。


「…ッ……!?」
「ナマエ…!」
「…テメェ、クロコダイル…ッ!!」


ガツン!と大きな衝撃がこめかみ当たりに走り、チカチカと視界が瞬く中で身体がゆっくり倒れていく。
ツー…と頬を伝う感覚に、クロコダイルに金属のついている方の腕で思い切り殴られたのだと理解した。

痛い、すごく痛い。
ジンジンでもズキズキでもない、言い表せないような感じたことのない痛みに支配される。


「クハハ。この女は些か面倒だ…俺の邪魔になる前に早いとこ消しといた方がいいだろうよ」


キーンと高い耳鳴りがする中、クロコダイルの声とロシナンテやルフィ達が激昴する叫び声が聞こえてくる。

意識を失ったらダメだ…これからこいつを倒さなきゃいけないんだから。
ピクピクと小刻みに痙攣する手を動かして、自分のほっぺたをぎゅうっと抓る。
頭は痛くない、頬の方が痛い。そう思わせて沈みそうになる脳を気合いで起こしていた。


「…やめろォーーーッ!!」


ロシナンテの一際大きな声が聞こえて、それから。

目の前にサラサラと散っていく砂、そしてクロコダイルの驚くような声。
それを最後に、繋ぎとめていた意識はプツンと途切れてわたしの視界はブラックアウトした。