12
わたしとロシナンテが座っていたソファが急に消えて、2人でドシン!と床にお尻をぶつける。
「痛てェ…!?」
「イタタ…って、え?」
不可解な現象の後すぐに、ロシナンテの座っている床にポッカリと大きな黒い穴ができていくのがハッキリとわたしの目に映った。
あ、どうしよう。多分ロシナンテ、元の世界に…!
直感的にそう思ったわたしは、部屋までダッシュして準備していたトートバッグを両手に手に持ってすぐにリビングへ戻ってくる。
「うお…っ!なんだ、これ…穴ァ!?」
「ー…ロシナンテ!!」
穴に落ちていくロシナンテに右手を伸ばすと、今の状況をやっと悟ったらしい彼が真っ直ぐにわたしを見つめて同じように腕を伸ばしてくれた。
そのままグイッと強い力に引っ張られて、わたしも一緒に暗い穴の中に落ちていく。
ギュッとロシナンテに抱き締められて、その胸にすりすりと顔を押し付けた。
「いきなり過ぎるだろ。ビックリしたぜ…ってこれどこまで落ちるんだ?」
「分からない。…ん?なんか青いのが見えてきた」
暗闇から、ガラリとその景色が変わる。
見えたのは青い空に白い雲、そして広大な海。
島が少し遠くに見えて、そこに停船している船のマストの先には…ドクロマークの海賊旗。
「…っロシナンテ、この世界って!」
「ああ!俺のいた世界だ。戻ってきた…!」
いつもよりいくらか高い声に、ロシナンテの気分が上がってることが分かってわたしも嬉しくなる。
「……あ、嘘」
そんな呑気に会話してる場合じゃない、と気付いたのはマリンブルーの海面が徐々に近付いてきてることに今更ながらに気付いたからで。
どうしよう、この状況。
ロシナンテはおバカなところもあるから忘れてるんだろうけど、能力者は海…ダメだったはずだよね。
わたしが泳げるとしても体格の大きいロシナンテを支えて陸まで辿り着くなんて無理だ。
何よりも、こんな高さから水面に叩きつけられたら泳げる泳げない以前にその衝撃で死んでしまうかも。
「ロシナンテ、っあ…!?」
ロシナンテにこの最悪の状況を伝えようとした瞬間。
ーー…ビュウッ!!と目も開けてられないような強い突風に襲われて、わたしを抱き締めてくれていたロシナンテと身体が引き離されてしまった。
「な…っナマエ…!!」
それはただの風ではなく。
海への落下が止まり、下へと落ちていた身体はそのまま空中で浮いたと思えばまたもや、吹いてきた突風に次は横に飛ばされる。
「ナマエーー…っ!」
同じように、わたしとは反対の方向に飛ばされて小さくなっていくロシナンテと彼の声。
ついに豆粒にも見えなくなってしまったロシナンテが消えた方をジッと見つめたら、じわりと涙が出てきた。
「……訳分からない」
呟いて、ロシナンテに渡し忘れていたトートバッグをグッと抱き締めて。
どこまで飛ばされるのかも分からない風に乗せられて、急に重くなってきた瞼に従って目を閉じた。
前途多難な幕開け
(こんなんアリかよ!くそ…!)
(ロシナンテ探さないと)
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