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11



ロシナンテから悪魔の実の話を聞いたとき、そういえばとふと思い出したことがあった。

彼がわたしの家に突然現れた日の朝。
テーブルの上に置いてあった、珍しいグルグル模様でパイナップルのような形をした小さな果実のことを。


「ロシナンテ、その悪魔の実って…変なグルグル模様だったりする?」
「ああ、そういやそんなんだったな…って何でナマエが知ってんだ?」


ラップに巻かれて冷凍庫に眠らせているアレが、まさか悪魔の実だったなんて。


□ □ □



仕事が終わり家に帰ってきてすぐにわたしは冷凍庫から例の物を取り出した。
ロシナンテ、これ…とそれを見せたら目が取れちゃうんじゃないかってほど彼は驚いている。


「おま、これ…っ!悪魔の実じゃねェか…!」
「わ、やっぱりこれってそうなんだ」
「…どうして異世界のモンであるコレを、ナマエが持ってんだ?」
「分からない。でもロシナンテがここに来る前、気付いたらこれがここにあって…」


テーブルの上をコツンと叩けば、ロシナンテは何かを考えているみたいで無言になる。

食べたら特殊な能力を手に入れられて、でもその代わりに海に嫌われてカナヅチになってしまうという果実。
色んな能力があるって言っていたけれど、これは果たしてどんな能力の実なんだろう。


「―…ナマエ、食べる気か?」
「えっ。あ、いや…ちょっと気になって」
「これが俺の世界での話だったらすぐにでも売っちまうんだけどなァ」
「いくらで売れるの?これ」
「あー…最低でも1億はかたい」
「は…、億って…!」


こんなヘンテコで小さな実に1億。
ロシナンテの世界では余程、価値のあり過ぎる代物なんだろう。”悪魔の実”は。

まあでも、良く考えればそりゃそうだよね。
ローがかかっていた不治の病も、確か悪魔の実の能力があれば治せるってロシナンテは言ってた。
そんな奇跡みたいな能力を得られるかもしれないと考えたら、どんだけお金を積んでも欲しいって思う人がいても不思議じゃない。

…でも、そうか。1億か…。


「―…よし、決めた」
「ナマエ?」


目の前の悪魔の実をどうするかと悩んでいたロシナンテにニッと笑いかける。

大き目のトートバッグを部屋から持ってきて、ロシナンテがこの世界に来た時に着ていた服とかも全てバッグに詰めた。
赤くて紐がハートになってるフード、洗っても落ちなかった血の染みがついているハート柄のシャツ、黒いモフモフ。…そして悩みの種であるその悪魔の実も、そのままそのバッグの中へ収める。


「……何してんだ?」
「これ、ロシナンテの荷物。もし元の世界に戻れそうって時が来たら、このバッグ持っていって」
「は、あ…!?」


驚いて、そして怒ったように顔を歪めるロシナンテが目の前にいるけどわたしは笑顔を崩さない。


「元の世界に帰った時、この悪魔の実を売ってお金にすれば生活に困ったりしないでしょう?」
「…………」
「…ロシナンテが居なくなるのなんて嫌だよ?考えたくもない。でも、そう思っても別れはきっと必ず来るべき時に来るだろうから…。それならせめて、ロシナンテが戻った時に困ったりしないように準備はしておくべきだと思って」


ここに置いておくからね、ってベッドの近くにトートバッグを置いた。その時。

後ろにグッと身体を引っ張られて、気付いたらロシナンテの顔とその後ろに天井が視界に映る。
わたしはロシナンテに押し倒されていた。


「…俺は、ナマエと離れる気なんざ更々ない」
「でも、」
「この世界に残りたいってんなら話は別だ。無理強いはできねェ…」
「ロシナンテ…」
「だがもしナマエが、この世界を捨ててもいいって言えるなら……俺が元の世界に戻る時はおまえも一緒だ」


―――ナマエがいねェことが一番困るんだよ、俺は。

そう言ったロシナンテの声が、苦しそうで。思わず腕を伸ばして、ギュッと抱き締めた。
…そんなの、悩むまでもなく、最初から答えは決まってる。


「捨てられるよ。だってロシナンテがいない世界にいても意味がない」
「…っ悪い。ズルい聞き方しちまったよな…」
「ん?だってこれがわたしの本音だから、ロシナンテはズルくもなんともないよ。―…ロシナンテと一緒にいたいっていう、わたしのワガママなだけ」


ロシナンテが耳元でわたしの名前を呼ぶから、擽ったくてクスリと笑う。

果たしてわたしも一緒にロシナンテの世界へ行く…なんて出来るのかは分からない。
でも、ロシナンテがこっちに来れたのならわたしがあっちへ行ける可能性だってゼロじゃないはずだから。



ワガママ同士
(爺ちゃんと婆ちゃんの写真、入れておこうぜ)
(うん。ありがとう、ロシナンテ)