08
『俺に、元の世界に戻ってほしいか…?』
ロシナンテにそう聞かれた時、即答できなかった。
だって本当は戻ってほしくなんかないし、いなくなってほしくなんかない。
でもそんなのはわたしのただのワガママで。
ローを心配してるロシナンテと、彼と死に別れてしまったローのことを考えたら…引き留められるわけないだろうに。
ロシナンテへの想いを自覚してからずっと考え込んでいた懸念事が、これだった。
□ □ □
ガシャン、ガシャン。
騒がしい音が遠くで聞こえてきて、わたしの意識がフッと浮上していった。
「ん、んん……」
身体が怠い、頭も痛くて寒い。
あまりの体調の悪さに開けたばかりの瞳をギュッと閉じれば、目の奥がズクズクと痛んだ。
なにこれ、完全に風邪の症状じゃないか。初期症状のない突発的なやつで、しかもけっこう重いやつ。
というかわたし、何で寝て…?
さっきまで何してたんだっけ…確か、ロシナンテの傷の具合を診てて…それから?
「、ふう……っ」
荒くなる呼吸を落ち着かせて上半身を起こして周りを見渡すと、外はもうすっかり日が落ちてるのに部屋は電気も付けられてなくて真っ暗で。
彼の、ロシナンテの姿がないことにザワリと嫌な予感が胸を騒がした。
「……嘘、でしょう?」
まさか消えてしまった?戻ってしまった?
ーーー…彼のいた元の世界に。
気怠くて関節の痛む身体に鞭打って布団をはいでベッドサイドに足をつけて立ち上がるとグラッと視界が揺れたけど、今はそんなもの気にしてられない。
部屋のドアを開けて、リビングを覗いたらそこには電気がついていてその眩しさに目が痛くなる。
「ー…ナマエっ!起きて大丈夫なのか!?」
そして聴こえたのは、愛しい声。
目に映ったロシナンテは手に持っていたお玉をカランと床に落としてこちらに駆け寄ってきて、わたしの身体をそっと支えてくれた。
その瞬間。
ロシナンテが居てくれた安心と彼の優しさ、それから…好きって気持ちが溢れて零れて。
「ロシ、っロシナンテ…!」
「…ナマエ?どうし、」
「いなくならないで…!ずっとわたしの傍にいて…っ」
赤い瞳を大きく見開いてわたしを見るロシナンテ。
どんな反応が返ってくるのか怖くて、わたしは彼にギュッと抱き着いてその肩口に顔を埋めた。
…身体が弱ると心まで弱ってしまうというのは本当だったんだ。なんだかすごく胸が苦しい。
頭がぼーっとして思考もままならない状態で、そんなことを思っていた。
「っナマエ…!俺は、おまえが…」
耳元で聴こえるロシナンテの低音が心地良い。
ぎゅうっと彼に身体を包み込まれて、その暖かさにスっと瞼が落ちていく。
彼の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
切なくて苦しい
(んん…ロシ、ナンテ…)
(んなっ!?そ、れは反則だろ…!)
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