06
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「くっそ腹立つ…!」
とりあえず落ち着かせようと外のベンチに座らせたが、ナマエはずっと怒りの言葉を口にしてギュッと拳を強く握っている。
俺は正直、不謹慎だがさっきの騒動に礼を言いたい。
ナマエの美点をひとつ、知ることができたからだ。
自分の全く知らないような赤の他人の為ににここまで腹を立てて、ハッキリと物を言うナマエを俺はすげェ優しくて強い奴だと思う。
「…こめん、ロシナンテ」
「何がだ?」
「せっかくのデート、台無しに…」
「デ…っ!?」
ナマエの方から“デート”と言ってきた。
今日のこれは紛うことなきデートなんだろう。…うわ、なんだこれ。そうだと思ったら今更気恥ずかしくなってきやがった…!
緊張して手が若干震えたような気がするが、気のせいだと思い込んで息を深く吐く。
「台無しになったとか思ってねェよ。ナマエは間違ったことは言ってなかっただろうが。むしろおまえが言ってなかったら俺があそこで暴れてたな」
「…はは、暴れるって何さ」
やっと笑ってくれたナマエに嬉しくなる。
それからまた少しお互いに無言になり、俺は特に何かを考えてたわけじゃないが気になったことを聞いてみることにした。
「なあ、ナマエ」
「なあに?」
「おまえはその、さ…病気とかうつされんの嫌だったり怖かったりしねェのか?」
それを聞いた瞬間、はあ?というナマエの不機嫌そうな声に俺はそれを聞いたことを激しく後悔する。
やべェ…俺もしかして地雷踏んだ?またドジった?
「はあ……病気うつされるのが怖くて医者が務まるわけないでしょうに」
「………ッ」
「苦しんでる患者がいる限り、わたしは最善を尽くすね。うつされても別に、最終的に治せればいい」
強い眼差しで俺を見るナマエに、ドキリと今日一の大きな音を心臓が立てた。
「それが、不治の病でもか…?」
「治せない病気なんてない。治療法が分からないんなら探すよ。医者が患者に最善を尽くすっていうのはそういうことだとわたしは思ってる」
その言葉を聞いて、思った。
ナマエみたいな医者が居てくれたなら、ローはもっと早く痛みや苦しみから救われたんじゃねェかと。
それは病気もそうだが、心も。
「…俺、前に言ったことあったよな。ローっていう病気のガキを助けたくて、それで俺は死んだってよ」
「……うん、言ってたね」
「ローは、珀鉛病って不治の病にかかってた。どんだけ医者に連れていこうが、そいつらは珀鉛病に感染したくないと喚いてローを病原菌扱いしやがった…!」
それから、ローが病気になった経緯や俺がローと半年間旅した内容のこと、オペオペの実の話をナマエにした。
最後まで黙って聞いてくれていた彼女は、全てを聞き終わると俺の肩にそっと頭を乗せてくる。
…もう慣れてくるくらい、今日はナマエの言動にいちいち胸が騒がしくなりやがる。
「…ローのこと、もしかしたら悪魔の実に頼らずに治してあげられたかもしれないのにって思ったら…わたしなんか悔しいや」
「っ、ナマエ…」
その言葉、ローに聞かしてやりたい。
ナマエのそれを聞いて泣きそうになるのを必死に我慢してたら、鼻を啜るような音が隣から聴こえた。
…ナマエは、静かに泣いていた。
「…………」
それを見て、俺は自覚する。ナマエに抱くこの感情が一体何なのか、今…ハッキリと分かったんだ。
出会ってから日が経ってねェとか、そんなもんはどうでもいい。ーーー俺は………。
会ったこともねェ他人のために涙を流せるこの優しい女が、愛おしくて堪らない。
自覚した想い
(ねえ、ローってどんな子?)
(あー…かわいいがクソ生意気なやつ)
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