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05





ロシナンテを、所謂デートに誘ったのは彼のことが知りたいとただ単純にそう思ったから。

家にいる時もけっこう話してはいるけど、テレビとか読書とかにお互い夢中になることが多くてゆっくり話すことはあまりしてなかったと思う。

異性に対してこんな気持ちになるのは初めてで、なんだか胸が擽ったい。


□ □ □



デート、なんてしたことがないからどこに行って何をすればいいかなんて何も考えてなかったけれど。
遊具で遊ぶよりは魚を見た方が落ち着けるかなと思って、電車に乗って水族館に来た。


「へえ…ニホンの魚はこんなに小さいんだな」
「小さい?今の魚はこの水族館の名物で、なかなか大きい方なんだけどな」
「偉大なる航路には巨大なガレオン船を飲み込んじまうほどのデカい海王類がいるんだぜ」
「す、すご…!」


グランドラインも海王類も何のことだかさっぱりだけど、彼の世界には怪物並の魚がいるらしい。
想像なんて到底できやしないけど、海賊然り、彼の世界は随分と物騒なんだな…と。


「こうやって魚を見ることなんざ無かったが、綺麗なもんだな。お!あいつすげェ仏頂面してる」
「ふ、はは…っ!本当だ、面白い顔」
「……っ、!」


目の前の大きな水槽を通り過ぎた魚を指さして笑うロシナンテにつられて笑うと、彼は少しの間こっちを見て固まってしまった。
おーい!と目の前で手を振ればすぐに我に返ったようで、何故か照れ臭そうに頬をかいていた。

水族館って初めて来たけど、楽しい。…ロシナンテが一緒だからかもしれない。
彼の純粋で素直な反応は見てるこっちまで楽しくなるし、自然と笑顔になるから。


「ロシナンテ、あっちにクラゲの水槽あるってさ」
「クラゲかー。俺初めて見るなそれ」
「ふわふわで綺麗だよ」


パンフレットの案内を見ながら歩いていたからか、何かに躓いてグラリと身体が前へ傾く。
あ、倒れる…なんて呑気に思ってれば、グイッと身体を引かれてわたしが地面とキスすることはなかった。


「…っぶねェな。いつもドジって転んでる俺が言うことじゃねえかもしれないけど、気を付けて歩けよ?」


身体を支えてくれたのはロシナンテで、彼の大きくて逞しい腕がわたしのお腹あたりに回ってる。
わ、なんだろうこれ。心臓の音が速い…!


「えっと…ありがとう、ロシナンテ」
「お、おう。…………」
「…ロシナンテ?」

「…あの、よ。また転びそうになっても危ねェから、ナマエさえ良ければ手…繋がねェか?」


嫌だったらいいんだ!と焦って両手をブンブン振るロシナンテ。
手繋いでもいいけど、それだとわたしと恋人だとか周りに思われるかもなのに…いいのかね。
まあ、ロシナンテから提案してくれてるんだから悪いってことはないんだろうけど…。


「……ん。手、繋いでおいて。わたしじゃなくてロシナンテの方がいっぱい転びそうだけど」
「………っ。ぐ、言い返せねェ…」


了承してわたしからロシナンテの大きな手をギュッと握ったら、彼は強ばっていた表情をふわりと柔らかくして、控えめに握り返してきた。

…心臓、悪いわけじゃないよねわたし。めちゃくちゃ動悸が激しいんだけど。帰ったら1回検査してみた方がいいかな、これ。



発作の起こる距離
(ぬわ…っ!?)
(わ!ちょっとロシナンテが転んだらわたしも転ぶ)