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04




純粋に、医者として興味があった。
ロシナンテが命を賭けてまでしなきゃ治せないような病気とは、いったいどんなものだったんだろうって。

時折、苦しそうな顔をする彼を見たら、そんなこと聞くことなんてできやしなかった。


□ □ □



受付時間は17:00まで、診察は18:00。
きっちりと定時で終わらせてロシナンテと一緒に家に帰ってくると、真っ先にわたしは仏壇の前へと向かった。


「ただいま、爺ちゃん。婆ちゃん」


仕事から帰ってきてお線香をあげるのはいつも必ずやっていること。

手を合わせて数秒、スッと和室にロシナンテが入ってきた気配がして目を開ける。
お線香の匂いとか不快になったりしないかな、と少し心配したけど彼は何も言わずにわたしの隣へと腰かけた。あ、正座できるんだ。


「………家族か?」
「うん、そう。わたしの家族だね」


それ以上を聞いてもいいのかどうか悩んでるらしいロシナンテは、わたしの真似をして手を合わせながらもこっちをチラチラと見てくる。
身体は大きくてもういい大人なのにその仕草が妙に子供っぽくて、わたしは小さく笑った。


「爺ちゃんと婆ちゃんは、養護施設にいたわたしを引き取ってくれた人達だよ」
「…養護施設?」
「うん。親のいない子供、親に虐待されて家に帰れない子供とかを養護してくれる施設。わたしは前者の理由で入所してた」
「親がいねェって…」
「正確には、いなくなっちゃった」


わたしが5歳の頃、家が火事になって母親と父親の2人は死んでしまった。
奇跡的にわたしの命は助かったけれど、わたしも大きな火傷を負っていて、目が覚めたら病院で。そこで親が死んだことを知らされた。

衝撃的過ぎて、信じられなくて、涙も出なくて。
火事で全焼した家にはもう写真も何一つとして残ったものはなく、わたしはそのショックで両親の顔すらも思い出せなくなってしまった。


「今でも思い出せないんだ、親の顔。なんて親不孝なんだろうっていつも思ってる」
「ナマエ……」


昨日今日出会ったばかりの人に話すような内容じゃないのはわたしもよく分かってる。
やっぱり話さなきゃ良かったかなって思った。目に映ったロシナンテが、何故か今にも泣きそうな…そんな表情をしてるから。


「えっと、まあそれでね?養護施設にいたわたしを引き取ってくれた爺ちゃんと婆ちゃんが2人で診療所を開いてた人達で、そんな2人の元で医療についてたくさん勉強して専門学校にも入って医師免許もとった」


5年前に2人が死んじゃった後は、その診療所をわたしが継いで今に至るって感じかな。

そこまで言ってスクリと立ち上がったわたしは、何だかしんみりしちゃったなあ…と気まずくなってしまってとりあえずロシナンテの反応を待ってみることにした。


「―…ナマエ、」
「…ん?」
「ナマエ…っ!」
「えっ…、!」


わたしの頭の中に疑問符が飛んでいる内に、ロシナンテは立ち上がってギュウッと正面から抱き締めてきた。
身体を持ち上げられるようにして抱き締めてくるから、わたしの足はプランプランと宙に揺れる。

あー、えっと?これはどういう状況だろう。
……そうか。ロシナンテは優しいから、わたしのことを聞いて同情して、こうして慰めてくれてるわけか。

ズズっと鼻を啜る音と、ヒクリとしゃくる音が聴こえてギョッとする。


「ロシナンテ!?まさか泣いてんの…?」
「っ、だってよォ…!俺も悲しくなっちまって…ッ!」
「…………」


やっぱりそれは同情ではあったけど。一緒に悲しんで、涙まで流してくれる人なんて生まれて初めてだった。


「…ありがとう、ロシナンテ」


わたしを解放して涙まみれの顔で少しだけ笑った彼に、ギュッと心臓を掴まれるような感覚が襲ってきた。
イケメンだからと思った時と、違う。これは…なに?




惹き込まれる
(泣き虫なんだね、ロシナンテって)
(…やべ。ナマエの服に鼻水つけちまった!)