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01





赤いフードから伸びる紐はハート型で、彼が着ているシャツもハート柄。わたしが見つけた時、顔には道化師みたいなメイクをしてたけど、傷の治療と血を拭くために綺麗にしたから今はスッピンだ。

こうして改めて面と向かい合ってみると、身長が相当高いみたいで少し首が痛くなる。さすがは外国人。


「まずは…そうだな。名前から聞いていい?」
「ああ。俺はドンキホーテ・ロシナンテ」
「ドンキホーテさんね。わたしはナマエ」


名前を聞いて彼がハッキリと日本人じゃないことが分かったわけだけど、それだとしたらここまで日本語ペラペラなのも奇妙ね。相当な親日家なのかも。


「じゃあ次の質問。あなたがわたしの部屋で気を失っていたのはなんで?」
「それなんだがな…俺にも分からねェんだ」
「分からない、って?」
「…気が付いたらここにいて、目の前におまえがいた。信じてもらえねェかもしれないが、本当だ」


苦い顔をしてそう言い、わたしを真っ直ぐに見つめてくるドンキホーテさんの瞳に揺らぎはない。
彼の話が事実なのかを裏付ける証拠なんて有りはしないのだから信じる余地はないはすだけど、それが嘘だという証拠もない。

何れにせよ、施錠された密室であるわたしの部屋に突然、彼が現れたのはわたし自身が理解してる。


「わたし、あなたのその傷を治療した時に銃弾をいくつも摘出したんだけど…。銃で撃たれることのあるような危ない道の人なの?」


血だらけ傷だらけで発見した彼を医者として見過ごすわけにもいかず治療した時から、これはずっと気になっていたことだった。

銃傷なんて治療する機会もあるわけないししたことも無かったからすぐにネットで処置方法を調べて無事に成功したから良かったけど…本当ならぽっくり逝っててもおかしくないほどの重症だあれは。


「俺は、海軍でな…実の兄の海賊団に潜入するという任務に就いてたんだ」
「……は、海賊?」
「ああ。そこで出会った病気の子供がいて、俺はそいつを助けてやりたくて…兄と海軍を裏切った。そのせいで俺は、殺されたはずなんだ…けどよ」

「…ちょっと待って、海賊ってなに。海軍って、海上自衛隊か何かのことを言ってる?」


中身を喉に通すことなく、口に付けたままになってしまっていたマグカップを離して尋ねればドンキホーテさんは小首を傾げてわたしを見る。


「海賊は海賊だぞ?海軍は世界政府直属の…まあなんだ、海の平和を守る組織だな。海賊とっ捕まえたり悪党から市民を守ったりするのが主な仕事だ」
「でも待って…今の時代、海賊がいるなんて今まで聞いたことがない」
「な、何言ってんだ…?海賊なんざ今の時代なら、海に出ればいくらでもいる!懸賞金が億を超える奴らだって多くなってきてるくらいで…ッ」


それがいくら日本の話ではないとはいえ、億なんて単位を超える懸賞金のかけられた海賊がこの海にウヨウヨいるなんてこと…ニュースにならないわけがない。

まさか、この男は。


「ねえ、変なこと聞いていい?」
「………?」
「ここは日本っていう国なんだけど、知ってる?アメリカは?イギリス、フランス、イタリアは?」

「、っすまねェが…全部聞いたこともない名前だ」


こんな非現実的なことって本当に起こるもんなのか。



予想外の退屈しのぎ
(異世界からようこそ、ドンキホーテさん)
(ー………はァ!?)