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□ □ □



王家の風呂なだけあって馬鹿デカい大浴場に足を踏み入れる。入って早々にルフィやウソップがガキみてェに騒ぎ出して、その様子に肩を竦めた。

ガキみたいって…考えてみりゃあいつらまだ10代か。それならあのテンションも納得だ。


「はあ……」


そんなことよりも、俺が気がかりなのは女風呂の方へ拉致されていったナマエのこと。

背中の火傷の痕のことを俺に初めて打ち明けてくれた時も、あれだけ怯えてたんだ。ナミやビビも今やナマエにとって”嫌われたくない人達”に入ってるはず。
あの2人が悪いこと言うとは思ってないが、あいつが傷付くようなことになってないか不安だ…。


「何やってんだ…あいつらアホか」
「ゾロ?何って…、あァ!?」


俺がボーッと湯船に浸かってる隙に、俺とゾロ以外の野郎共が女風呂を覗きに行くのが見えた。

ふっざけんな…!もしかしたら俺のナマエだってナミ達と入ってるかもしれねェんだぞ!?

咄嗟に能力を使おうとしたが時すでに遅し。
女風呂を覗いていた野郎共が揃いも揃って鼻血を吹かして床に倒れていやがった。


「ッおいコラ!テメェら、誰のナニを見て鼻血なんか吹くことになったんだ!?あァ!?」
「あが、がががっ……ッ」


サンジの両肩を鷲掴んでガクガクと揺らすが、相変わらず目はハートのままで鼻血は出っぱなしだ。
…もしこれがナマエの裸見てこうなってるんだったら、俺はこいつらの記憶を消し飛ばす方法を考えなきゃならねェな。その前にまずシバキ倒すがな。


「ロシナンテー…!?」
「っ、ナマエ!!大丈夫か?見られたか!?」


女風呂と男風呂を隔てる壁を今すぐにでもよじ登ってナマエの傍に行きたかったが、それは堪えた。
俺が必死に声をかけると、女風呂の方からクスクスと笑い声が聴こえてきて思わず首を傾げる。


「見られてないから大丈夫ー。サンジ達はナミの幸せパンチを喰らっただけだから!」
「幸せパンチ……?」
「ーー…、それに“あの事”も心配いらないよ。ナミとビビ、受け入れてくれた」


ナマエの本当に安心したような声音。
そして『あったり前じゃない!』というナミの力づい声と、それに賛同するようなビビの小さな笑い声。


「………ッ、」


良かったな、ナマエ。
それに俺の悩みもこれでとりあえず解消されたわけだ。

大きく息を吐いてから、気絶寸前になっていたサンジにバツ悪く謝罪をしていると。
ビビのオヤジでありアラバスタ国王のコブラが、ナミの幸せパンチを喰らった名残である鼻血を垂らしながら“ありがとう”と呟くように言った。


『エロオヤジ』
「“そっち”じゃないわ!!………国を、だよ」


国王はそう言ってから、鼻血を拭って床に座り込み、ベタりと頭を下げた。
仮にも一国の王である彼が一般人、ましてや海賊に頭を下げるなんてことをするという予想外過ぎる行動に付き人である男も動揺を隠せずにいる。


「これは大事件ですぞ、コブラ様…!王が人に頭など下げてはなりません…!!」
「イガラムよ。権威とは衣の上から着るものだ。…だが、ここは風呂場」


頭を上げた国王がニコリと笑って俺達を見回す。


「裸の王などいるものか。…私は一人の父として
、この土地に住む民として心より礼を言いたい」


ーー…どうも、ありがとう。

その言葉を聞いて、ルフィを初めとして俺達の顔にも笑みが浮かんだ。後でナマエにも伝えてやろう。

そしてこれが、俺達がアラバスタ王国を出航する数時間前の出来事となったのだった。



迫る別れ
(今夜か…早いな)
(…ビビ、わたし達と一緒に来るかな)