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ガチャ、とドアが閉まったのを確認してから小さく息を吐いたらロシナンテが起き上がってベッドに座っているのが目に入った。
わたしと目が合うと、彼はフッと微笑んで自分の隣にくるようにベッドをポンポンと叩く。
「…もしかして、聞いてた?」
「あー…おう」
「ね、ロシナンテ。わたし後悔してないよ」
ビビからの提案。
それはこのアラバスタという国でロシナンテと2人でひっそりと暮らしたらどうか、というもの。
この国の王女であるビビの眼下であれば海軍に見つかることはそうそう無い。それと、わたしがルフィに海賊を誘われた時に海賊になる気はないと言ってたこともビビは覚えていたらしくわたしの気持ちと安全も考えた上での提案だと言ってくれた。
とても心揺らぐ、嬉しいその提案に普通だったらすぐに頷くべきだと真っ先に思った…けど。
海賊であるわたしとロシナンテを匿うという行いが海軍にバレたら、ビビや国王様たちの立場も危うくなる。それは嫌だし、迷惑をかけるわけにはいかない。
「それに、もうちょっと楽しみたいって思っちゃったんだよね。ルフィ達との海賊生活を」
「―…そうか。まあ、なんだ…安心した」
「ビビからのお誘い、断っちゃって良かった?」
「そりゃいつかはナマエとどっかに身を落ち着かせてひっそり暮らしてェとは思ってる。だけど今はまだもう少し、ナマエと海を楽しみたいとも思ってたからな」
ロシナンテがニッと笑うと、横からギュッと抱き締めてきてそのままボフンとベッドに倒れる。
至近距離でロシナンテの赤い瞳と見つめ合い、それからどちらともなくお互いの唇を触れ合わせた。
なんか…なんか、こういうの久しぶり過ぎてこんなキスだけでもすごく照れる…!
目を開けることができなくてギュッと瞼を閉じてたら、その瞼に柔らかい感触とリップ音。
「っ、ロシー…」
「…ッナマエ、この状態でそれは…」
まずい、と続けたロシナンテの熱い吐息を肌に感じる。
「―…ロシー、サイレントかけて」
「………ッ」
ロシナンテは息をのんでから、パチンと指を鳴らし防音壁を張り巡らせてくれた。
女から誘うのって、はしたないかな…引かれるかな。
思い悩んでモジモジしてたら、顎を掴まれて腰を抱かれて。それから熱を孕んだロシナンテの瞳に囚われる。
「なあナマエ…いい、か?」
耳元で、そんな良い声で囁かれたら…。
ビクッと小さく身体を跳ねさせてしまったことに気付かれたらしく、ロシナンテは少し笑った。
「…愛してるぜ、ナマエ」
ああもう、絶対分かっててやってる。
なんだか悔しくなってして、ロシナンテの頬を両手で包み込んで自分から深く深くキスをした。
「、っはあ…ナマエ…?」
「わたしも愛してる。ロシーのこと」
離れたばかりのロシナンテの唇に再び自分のものを触れさせてそう言えば、彼はボンッと顔を真っ赤にさせてからその表情を見られないようにしたいのかわたしの胸に顔を埋めている。
ふわふわの金髪が顔に当たって擽ったい。
その感覚に耐えきれずふふ、と笑いを零したら何か違うことで笑われたと勘違いしたらしいロシナンテがムッとさせた顔を上げる。
「…これから、楽しみだね。ロシナンテ」
「ああ。まァ、今からするのは別の“お楽しみ”だがな」
サイレントによって雨の音が聴こえなくなってしまったのを少しだけ残念に思いながら、ロシナンテの首に腕を回したのだった。
終わりと始まり
(ふう…ビビには色々と気遣ってもらっちまったな)
(あ、ロシナンテ!タバコ吸わないで。宮殿が燃える)
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