危機一髪 [1/2]
肝試しの終わったグループから各自、宿舎に続々と戻っていく中。
最後のグループのメンバー達の学校の部長。そして沙蘭は、自分が最も心配している彼らが無事に戻ってくるのを待っていた。
因みに顧問の先生達はミーティングがあるということで一番先に宿舎へと既に戻っている。
なんて無責任な人達なのだ、とついさっきまで憤慨していた沙蘭ではあったが白石と手塚に宥められて何とか落ち着いたところだ。
「謙也のやつ、相当ビビっとるやろなあ…。俺も同じグループやったらおちょくれておもろかったんやけど」
「うちの赤也もなかなかに怖がりな奴なんだ。そういう人ってからかうと面白い反応してくれるよね」
「ハッ!俺様のところの日吉はそんな肝っ玉の小さい男じゃねえ。お前らのところの腰抜けとは違うんだよ」
「はあ…跡部クン、浪速のスピードスターを舐めたらあかんで?やる時はやる男や」
「安心しなよ跡部。赤也のほうが氷帝の次期部長より強いから」
「アーン?…言ってくれるじゃねえか」
「っあー……うちの越前も、」
「――あなた達ちょっと静かに、ッ…!?」
部長たちによる謎の部員自慢が始まり、煮えを切らした沙蘭が黙らせようと口を開いたその時。
ずっと手に握り締めていた数珠が熱を持ち始め、そして数珠に付いている勾玉が一瞬、紅く光ったのを沙蘭は見逃さなかった。
(札の封が解かれた!?赤也たちに危険が、!)
何が原因かは分からないが、今朝日吉と共に貼った赤札の効果が破られて保護されていた空間に悪い気が入り込んできているのが分かる。
何はともあれ、今自分たちがいるこの場所も危険だが、森の奥深くに入っていってしまっている彼らの身の方が何倍も危険だ。
「精市、みんなを連れて宿舎に戻ってくれるかしら」
「…何かあった?」
「ええ、赤也たちが危険だわ。わたしは今から彼らのところへ向かう。この場所も危険になるかもしれないから、お願い」
沙蘭の”お願い”。
これは彼女が、幸村も自分についてくると言うだろうと踏んでの”言い方”だった。
普段から憑かれやすい体質の自分が沙蘭について行ったところで、何も力になれないことなど考えれば分かる。
しかし沙蘭は決して、幸村が役立たずだからという理由で一緒に来させないようにしたわけではないということも、本人は理解していた。
だとすれば、今自分が沙蘭の為に出来ることはこの場にいる彼女以外の人間を安全な場所へと誘導すること。
「…跡部、白石、手塚。とっとと宿舎へ戻るよ」
「幸村、何言ってやがる。まだ最後の奴らが戻ってきてないだろ。あーん?」
「そうね…少し時間がかかってるみたいだし、何かあったのかもしれないからわたしが森に入って彼らの様子を見てくるわ」
「却下だ。女1人でこの暗い森の中に入ってみろ。危ねェだろうが」
「沙蘭が行かないと赤也たちが危険なんだ。それに此処にいる俺たちも。悪いけど、説明は後でするから今は大人しく従ってくれ」
有無を言わせない、”神の子”幸村精市。
その雰囲気とオーラは、あの氷帝のキングですら気圧されるほどのもの。
「なんや、理由はよう分からんけど俺らはここから離れた方がええっちゅうことやんな?」
何かを察した様子の白石が落ち着いた声音でそう問うと、手に持っている勾玉付きの数珠とは別の鈴付きの数珠ポケットから取り出して、沙蘭は頷いた。
「精市が言ったように、事が済んだらきちんと説明するわ。その時、その話を信じるも信じないもあなた達次第となってしまうような事ではあるけれど…」
「………はあー、分かった」
「跡部くん、」
「景吾、だ。…話はあとでじっくり聞いてやる。それと、一応これを持っておけ」
跡部が沙蘭に手渡したのは小型のGPS付タブレット。
何かあった時の為だ、と些かぶっきらぼうに言い放つ跡部に微笑んだ沙蘭はお礼を呟く。
「謙也のこと、頼んだで。黒峰さんも十分に気ぃ付けてな。…助けが必要なときは真っ先に俺の名前、呼んで」
「ええ。ありがとう、白石くん」
「頷かなくていいから。ほら、手塚も行くよ」
「…ああ。黒峰、俺はまだ状況を把握できていないんだが…最後のグループには越前もいる。よろしく頼む」
そして、この場から沙蘭以外の人間がいなくなったところでようやく彼女は一度大きく息を吐いた。
(鈴の鳴り方からして…こっちね)
リィン、リィン。
小刻みに揺れ動く鈴を頼りに、沙蘭は足早に森の中へと踏み込んでいった。
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