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肝試し [1/2]


ついにやってきた肝試しの時間。
先程、マネージャー抜きのくじ引きが行われてグループが決まったところだった。


「ルールは簡単じゃ。グループごとに森の中に入り、道に置いてある蝋燭にマッチで火をつけながら進んでいく。一番奥まで行けば小さな祠があるから、そこに置いてある赤い札1枚持ち、行きに付けた蝋燭の火を消しながら帰ってくる。それだけだ!」


竜崎がニヤニヤと表情を崩しながらそう説明すると、怖いものが苦手な選手たちの小さな悲鳴が上がる。
沙蘭は各グループのメンバー達を記録したノートを眺めながら、危なげなグループはないかと思案していた。

(運が良いことに良い感じに守護霊の力が強い人が分散してくれてるみたいで一安心ね。ただ問題なのは、ここ…)

ノートをなぞる人差し指が止まったのは回る順番が1番最後となる、日吉、忍足(謙)、赤也、リョーマの名前が記載されている箇所。

一見してみれば霊力のある日吉がいる時点で安全かと思われるが、実はそれが裏目に出る可能性がある。
というのも今朝、日吉が沙蘭を手伝うために霊力を使った結界を張るという行為をしてからというもの…彼の霊力がすこぶる弱っているのだ。

朝はあれほどくっきりと見えていた彼の守護霊も、今は沙蘭の目にすらその姿を確認できない。
やはり、自分の持つ霊力に自覚を持ったばかりの人間に結界を張らせるなんて軽率すぎた。今更そう思っても後悔先に立たずなのは百も承知だが。


「沙蘭ちゃん」

「ん、雅治。どうかしたのかしら?」


考え事をしてる間にどんどん進行は進んでいたらしく、3番目に出発した仁王のグループがちょうど帰ってきたところだ。


「全然怖くなかったぜよ。沙蘭ちゃんのおかげじゃな」

「わたしの?」

「森を歩いてる間ずっと、俺が生霊に襲われた時にお前さんから感じた優しい気配が守ってくれてるような気がしたなり。まあ、ブンちゃんは相変わらずギャーギャーうるさかったがのう」


肩を竦めた仁王がチラリとブン太に目を向けたら、彼とバッチリ目が合って何かに気付いたような表情をしてダッ!とこちらに走ってきた。


「おい仁王!沙蘭に変なこと言うなよな…!」

「忍足のイタズラに引っかかって情けない叫び声を上げて手塚の腕に抱き着いてたなんて言ってないぜよ」

「なっ、てめ…ッ!沙蘭、違うんだ俺は…!!」

「大丈夫よブン太。あなたが怖がりなのはメアリーの件で知ってるもの。それに怖いと思うのは普通のことで悪いことじゃ、」


沙蘭の言葉を最後まで聞かずして、ブン太は顔色を自分の髪の色と同じにさせると涙目になりながら少し離れたところにいたジャッカルの元へダッシュしていき、八つ当たりを開始する。

そんなブン太を見ながら首を傾げている沙蘭の傍に現れたのは千歳と不二だ。


「黒峰さん、俺色々見えたばい。ばってん壁ん外におるだけでこっちには来んかったばい。君が何かしてくれたんやろ?」

「ええ。そこまで強い結界じゃないけれど、きちんと効力を発揮してくれて安心してるわ」

「へえ…。千歳が言ってた通り、黒峰さんが霊感があるのって本当なんだね」

「あら不二くん。あなたはそういうの信じるの?」

「どっちでもなかったけど今この時から信じる派になったかな。黒峰さんが嘘をつくはずもないだろうし、霊が見えたりするだけじゃなくて結界を張れたりするなんて…君ってすごいや」


自分にそういった霊力があるということを千歳によって勝手に不二に暴露されたことには少しの憤りを感じたが、まさか不二からそんな反応をされるだなんて思ってもいなかった沙蘭は面食らってしまっていた。

また1人、こんな自分を受け入れてくれる人が増えた。
そのことに胸が暖かくなると、沙蘭はキュッと唇を結んで何かを耐えるように…でもホッとしたようにふわりと微笑んで礼を述べる。

そんな沙蘭の表情に同じように面食らった不二は、いつも閉じられてる目をハッと開眼させたまま彼女の微笑みに暫し見惚れていた。


「不二、ダメだよ。俺のだから」


透き通った中性的な声が聴こえ、沙蘭は振り向く。

聞き慣れすぎたその声はもちろん幸村のもので。速攻で肝試しを終わらせてきたのだろう、彼と同じグループだったらしい財前、菊丸、向日は顔に汗を滲ませながらゼェハァと荒い呼吸を整えていた。

そんな中、息ひとつ切らせた様子のない幸村は流石は王者立海の部長と言ったところか。
沙蘭は呆れたように何故か不二と睨み合っている幸村を一瞥して、彼に付き合わされた3人の元へ向かう。


「大丈夫だった?精市がごめんなさいね」

「はあっ…沙蘭先輩が謝らんでええですよ。それに、俺としてもこんな下らんもんさっさと終わらせられて良かったと思っとるし」

「は、はは…っ!幸村はすごいにゃー。でもでも、オレすっげー怖いの苦手だから怖がる暇もなくて逆に助かったかもなーって!」

「っ、確かに。幸村のヤツ速すぎて置いてかれそうになったからそれだけは勘弁と思って死に物狂いでついてったから…なんか体力ついた気がするぜ」


財前、菊丸、向日は幸村の傍若無人で唯我独尊ともとれる行動に対して特別気にはしてないらしい。

沙蘭は小さく安堵して、それから何の危険もなく肝試しが終わっていってくれていることにもホッとした。
しかしそれは…今のところは、の話だが。

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