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事前準備 [1/2]



「―…肝試し大会、ですか?」


氷帝学園の榊太郎が、沙蘭の呟きに頷いた。

夕飯が終わってお風呂から上がったのとほぼ同時に館内放送が流れ、各学校の部長とマネージャーの招集がかかり、途中で幸村と合流した沙蘭が指定された小さなホールに集まったのだが。

そこにいた榊と竜崎からの言葉に、沙蘭は眉間に皺を寄せていた。


「肝試し大会は合同合宿恒例のレクリエーションじゃ」

「これは絶対参加だ。例外は認めない」


たかだか肝試しに絶対参加、だなんて。
沙蘭は意味が分からないと言いたげな視線を隣の幸村に向け、幸村は呆れたような溜め息をひとつ吐く。


「肝試しによって精神力が鍛えられるらしいよ。本当にくだらないよね。去年なんか散々な目に遭った」

「………でしょうね」


沙蘭が思い出すのは去年のこと。
合宿から帰ってきた幸村を見た時、彼に憑く霊の多さに唖然としたのを覚えている。
すぐに家に呼んでお祓いをしたからいいものの、大袈裟なんかではなく自分がいなければ幸村は死んでいただろうと思うほどだったのだ。

(ありえないわ。悪戯に霊を刺激すれば攻撃されて当然じゃない…なんて危険な!)

今すぐにでも声を上げて肝試しなんてものやめさせようと沙蘭が腰を浮かせるのを幸村が止めた。


「今年からは沙蘭がいるから大丈夫。そうだろう?」

「精市…買い被り過ぎよ。わたしは、」

「おまえがくれたお守りだって持ってる。去年みたいにはならないよ」

「………ええ」

「それに今ここで沙蘭がいくら霊の話をしたってそんな存在、信じてない奴は信じてないんだ。それを理由に、あの顧問たちが引き下がるとは思えない」


肩を竦めた幸村に、下唇を噛み締めた沙蘭。

榊と竜崎からの説明では、マネージャーは準備等担当で肝試し自体には参加はしないという。
これには思わず沙蘭もホッと胸を撫で下ろした。これで事前に色々と準備ができる、と。


「グループは4人1組じゃ。これは当日クジ引きで決めるからのう」

「明日の練習は15時まで。夕飯は17時までには済ませておけ。マネージャーは16時半にまたこのホールに集合しろ。以上だ、いってよし!」


なにがいってよし!だ。
沙蘭は榊と竜崎の後ろ姿に舌を出して頬を膨らませた。


「おい幸村、沙蘭。おまえらずっと何の話をしてたんだ?アーン?」

「跡部には関係のない話」

「俺も気になってたんよなあ」

「白石にも関係ないよ」

「…幸村。先生方の話はきちんと聞か、」

「手塚は黙ってて」

「……………」


黙ってしまった手塚を哀れに思い、沙蘭は幸村の頭を軽く小突いた。

正直言ってしまってもよかった。霊感が強く、悪霊を追い祓える力を持っているということを。
だけどそれをしないのはやはり、拒絶されるのが怖かったからで。
自分の能力を知った殆どの人が恐れ離れていくのに対して、幸村を含めた立海のメンバーが受け入れてくれていることが奇跡に近いと思うほどなのだから。

(どれだけ精市たちに救われているか分かるわね…)

苦笑すれば、ふと向かいにいた青学マネージャーの朋香と桜乃にチラチラ見られていることに気が付いた沙蘭。


「2人ともどうかした?」

「あ、あの…私たちその…、」

「…黒峰先輩のこと疑っちゃってました!ごめんなさい!」

「ごっごめんなさい…!」


ガバッと勢いよく頭を下げられて、沙蘭は驚きながらも思考を巡らせる。
そういえば彼女達は、自分のことを前のマネージャーと同じような人かもしれないと敬遠していたなと。


「気にしてないわ。そりゃ前の人と一緒に見られるのはいい気持ちにはならなかったけれど、あなた達がそうなってしまう原因があったんだもの。仕方の無いことよ」

「…黒峰先輩!いえ、沙蘭先輩!あたし達、お姉様みたいに素敵な人になれるように頑張ります!ね、桜乃!」

「う、うん!私も沙蘭先輩みたいに、なりたい…です」


面食らったような表情をした沙蘭が、バッと彼女達とそれを見ていた幸村達に背を向ける。
そんな彼女の肩が震えていることに気付いて周りは焦るが、幸村だけはその顔に笑みを浮かばせていた。


「大丈夫さ。沙蘭は照れてるだけ」

「…っちょっと精市!言わないで!」

「うわ、黒峰さん顔真っ赤。めっちゃかわええ」

「フン。それでこそ俺のフィアンセに相応し、」

「誰がフィアンセだよ。アホべ」

「幸村。言葉遣いには、」

「さっきからなに手塚。君は俺のお父さんなのかい?」


ごちゃごちゃと言い合う部長たちをさて置いて。
沙蘭は朋香と桜乃に笑いかけて『部屋でゆっくり話しましょう?』と言い、笑顔で頷いた2人を連れてその場から去っていった。

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