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惹かれる [1/3]



第一印象からして、黒峰はあまり感情の読み取れない不思議な奴。
この俺を目の前にして色めき立つどころか終始、表情を和らげることは一度もなく、こいつは他の雌猫共とは違うのかもしれねえと思った。

だが、よく考えてみれば前回の合同合宿の時に立海が連れてきたクソみたいなマネージャーのことも最初はそう思っていた。思ってしまっていた。
その結果、樺地に怪我をさせることになり合宿も台無しで終わり…これはあいつの本性を見抜けなかった俺の落ち度だ。

だからこそ、再び合同合宿の話が出て立海がマネージャーを連れてくるということを聞いたとき、俺はもう見誤ってはならねえと自分を叱咤した。

必要以上に冷たく接した自覚はいくらでもある。
だが、それによって立海の奴らに嫌われようがこいつ自身に嫌われようが俺は構わねえ。ここで間違った判断をして、また誰かが傷付くよりよっぽどマシだと。


「う、うぅん…」


瞼を伏せて、長い睫毛を目の下に触れさせて目を閉じていた黒峰が寝返りを打つ。
ベッドの端に座る俺に背を向ける態勢に変わり、再び寝息が聴こえてきて俺は息を吐いた。

だがな……もうとっくに分かってんだよ、黒峰が白だってことぐらい。

いつ見たってこいつはマネージャーの仕事をサボることなくしていたし、足を引っ張ったり男に色目を使ったりなんざすることは無かった。
何かあった時の為にと、合宿が始まる前に宿舎の敷地内に何台か設置しておいたカメラの記録からもその確証が取れている。

そしてさっき、さぞ気に食わねえはずの俺を鳳のサーブから庇った。
…これ以上、こいつを疑う余地はねえ。


「は、はうえ…」

「―……!」


ふと、”母上”と呼ぶ沙蘭のくぐもった声が聴こえた。

泣いてんのかとギョッとして顔を覗き込めば、黒峰の瞳がゆっくりと開き俺を捉えた。




□ □ □



沈んでいた意識を浮上させた沙蘭。

(母上にゴーヤを無理やり食べさせられる夢を見るなんて…)

苦い物は大の苦手な沙蘭だったが、好き嫌いを許さない彼女の母親によって幼い頃に嫌いなものを克服させようと毎日の食事にゴーヤを入れられていたことがある。

あれ以上の悪夢はない、と沙蘭が大きく溜め息を吐いたところでふと近くに人の気配があることに気が付いた。


「―…跡部、くん…」


沙蘭は自分の目の前にいる意外な人物とその彼の背後で煌々と輝いているモノに目を見開く。

自分を疑い、相当嫌っているであろう跡部。
そして彼の背後で輝く2つの光。

(…今まで全く見えなかったのに、何故かしら)

その2つの光は、跡部の守護霊に違いなかった。


「やっと目ぇ覚ましやがったな」

「…跡部くん、何故あなたがここに?」

「気絶したおまえを俺様がここまで運んでやったんだ。感謝しやがれ。アーン?」

「………?」


パイプ椅子にどっかりと座って足を組み、腕まで組んで鼻を鳴らした跡部の偉そうな態度は相変わらずだ。
だけどどこか、いつも彼が自分に向けてくる声音と表情が違う。

沙蘭がわずかに訝しげな表情を浮かべて跡部を見れば、彼は小さく舌打ちをした。


「もう疑ってねえよ、おまえのこと」

「……え?」


彼から発せられたのは予想外の言葉で、沙蘭は思わず声を漏らす。

まさか鳳のサーブから庇っただけで彼からの疑いが晴れたとでもいうのだろうか。
いや、跡部という人間がそんな浅慮であるわけがない。

(じゃあ何がわたしの疑いを晴らしてくれたのかしら…)

一晩経って財前の態度が変わった時と同じように、沙蘭の頭では疑問符が飛び交っていた。


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