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噂の彼女 [1/3]




遅れていた四天宝寺のメンバーも無事に合宿所へ到着し、これで今回の合宿参加校全てが揃った。

一度顔合わせをするとのことで、全員が大広間へと集まり、顧問たちを差し置いての跡部の挨拶の後、マネージャーの紹介へと進んでいく。


「青学1年の小坂田朋香です!リョーマ様!あたし頑張りますからねー!」

「えっと、竜崎桜乃ですっ。できる限りで皆さんのサポートをできたらいいと思ってます…よろしくお願いします!」

「…立海3年、黒峰沙蘭。頑張るわ」


初々しい1年生と打って変わっての沙蘭のドライな挨拶に少しざわめく選手たち。

(はあ…こんな大勢の前で自己紹介なんてさせなくてもいいじゃない)

つい最近まで学校でもプライベートでも1人で過ごしてきた自分に、いきなりこの状況というのはレベルが高すぎやしないかと。


「ー…ふふ」


沙蘭が至極不機嫌そうな顔をしているのが見えた幸村は面白そうに笑っていた。
そんな幸村に近付いたのは、四天宝寺の部長である白石蔵ノ介だ。


「なあ、幸村クン。聞きたいことがあるんやけど…」

「白石か。何が聞きたいんだい?」


マネージャーの紹介も終わり、榊太郎が壇上へ上がって合宿の内容を詳細に説明し始まり、彼らは声を小さくして話を続けた。


「自分らのとこのマネージャーなんやけど…黒峰さんって言っとたか。なんか問題ある子なん?」

「…どうしてそう思う?」

「いや、跡部クンがな…1年の子達しかドリンク運びに来なかったとか仕事せんマネージャーはいらんとか言っとったから気になってなあ」

「ふうん、そう。跡部がそんなことを…」


笑顔を崩してその美しい顔に表情をなくし、スッと瞳を冷たくさせる幸村に白石はギクリと肩を上げる。

(なんや地雷踏んでしもたんかな俺…)

聞いたことを後悔し始めたが、もう手遅れだ。
白石は次に発せられるであろう幸村の言葉にビクビクしながらそれを待った。


「白石たちも、そう思うのかい?沙蘭が仕事をしない出来損ないのマネージャーだって」

「は!?いや、そこまで言ってへんし思ってもないで…!千歳が黒峰さんはそんな子やあらへんって言っとったのもあるしな。せやけど、ほんならなんで跡部クンはあんなこと言うたんやろって思って…」


さすがは王者立海テニス部部長、幸村精市。
彼からの流し目に射抜かれただけで金縛りにあったみたいに動けなくなるような感覚に陥る。

白石が慌てて幸村の言葉を否定すると、それを聞いた彼はふうと疲れたように溜息をついた。


「前に立海と氷帝、そして青学で合宿をしたことがあったんだ。その時にうちのマネージャーをしてた奴がとんでもない女でね…。それかあったから、跡部は必要以上に警戒してるんだよ。俺たちの新しいマネージャーの沙蘭のこと」

「…そういうことやったんやな」

「ちなみに、沙蘭がドリンクを運びに来なかったのは事実だよ。ただドリンクの準備はきちんとあいつがしていたし、青学の子達には運ぶのを頼んで別の仕事をしてただけだ」


それは本人から聞いたわけでも桜乃たちから聞いたわけでもないことだが、幸村は沙蘭がそうしたという確信があった。

立海のマネージャーである彼女でなければ、メンバーそれぞれの好みに味を変えてドリンクを作るなど到底無理な話なのだから。


「なんや幸村クンからそれ聞けて安心したわ。あーっと、さっきも言ったけど別に黒峰さんが仕事せんとか思っとったわけちゃうねんで?」

「…そうか」

「あの跡部クンの言葉鵜呑みにしてもうて黒峰さんに悪い印象持ってしまっとるメンバーも何人かいてなあ。せやけどこれで黒峰さんが悪い子やないって自信持って言えるし、ほんま良かったわ」

「まあ、あとは自分たちで判断するといいよ。これから合宿中の沙蘭のこと見ていれば嫌でもそれが分かると思うけど」


そこまで言って、幸村はやっと表情を緩めた。

白石はホッと胸を撫で下ろし、自分の部員たちに説明しないと、と四天宝寺の群れに戻っていこうとする。

そんな彼を幸村が引き止めた。


「ー…沙蘭を傷付けたり何か危害を加えようものなら、容赦しないから。君のところの部員達にも釘指しておいてくれ。よろしく頼むよ、白石」

「………お、おん」


ニコッと目まで笑う幸村に、顔を引き攣らせた白石。
笑顔というもので人をここまで怖いと思わせることができるのは幸村くらいではないか。

(それくらい大事なんやろうけど…。んんー…黒峰沙蘭ちゃん、か)

白石がチラリと目を向けた先にいる彼女。

長い長い榊の話に眠気を誘われてしまったのか、頭を揺らしてコクコクと船を漕ぎハッとして目を擦ってを繰り返して頑張って耐えている。

それを立海のメンバーに見られていることに気付いた沙蘭は、寝てもいい?と口パクで誰かに聞いているがそれを否定されて頬を膨らませてプイッとそっぽを向いた。

その様子に、ぶは!と吹き出した白石は『いきなり笑い出すとか部長キモいっすわ』と後輩の財前に指摘されるが、沙蘭から目を向けたまま。


「なんや興味そそられる子やなあ」


その呟きは、榊太郎の『いってよし!』の声量にかき消されたのだった。

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