深まる縁 [1/3]
「あの、黒峰さんってさ…幸村くんとどういう関係?」
その言葉を聞いた瞬間、沙蘭は思ったより早かったなと驚く様子もなく溜め息を吐いた。
仁王の一件があってから男子テニス部のレギュラー全員と面識を持っつことになってしまい、それにより幸村との関係も彼らにはバレてしまっている。
どこからかそのことが漏れるだろう、とは覚悟していた沙蘭だったがあんなにも強く口止めしておいたはずの彼らがバラすとは考えにくいとも思う。
だとすれば後の原因は…とそこまで考えて沙蘭はそういえば会話の途中だったと意識をそちちらへと戻したのだった。
「どういう関係とは?」
「えっと、よく裏庭の花壇のところで幸村くんと黒峰さんが一緒にいるところを見かけるって聞いたから…」
やっぱりそれが原因か。
沙蘭は、はしたないと思いつつも今すぐ舌打ちをしたくなる。
幸村と沙蘭が幼馴染みだということをレギュラー達に隠す必要がなくなったという余裕からか、それからというもの幸村は学校内で沙蘭に接触してくることが多くなっていた。
今までは周りに人がいようがいまいが本当に他人のような振る舞いをしてきたというのに。
「…同じ美化委員会に入っているから花壇の手入れをしていただけよ」
「あ、そうなんだ…付き合ってるとかじゃなくて?」
「付き合ってないわ」
「なあんだ。残念」
「ざ、残念?」
沙蘭を呼び出した女子2人は彼女の答えを聞くと、がっかりしたように顔をしょんぼりさせた。
(てっきりシメられるのだと思っていたのだけれど…)
どうもそれが目的だったわけではないらしい。ではいったい彼女たちは何を残念がっているのか。
「私、男子テニス部レギュラーのファンクラブの会長なの。それで、黒峰さんと幸村くんが花壇に2人きりでいるってことを聞いて…その時に証拠としてこの写真をもらったんだけど」
「―…あら」
見せられた写真に写っているのは、色とりどりの花たちと幸村と沙蘭の姿。
2人とも花を見つめながら小さく微笑んでいる。
「それを見た時に、なんて綺麗なんだろうって!」
「そうね。ここの花壇の花は他よりも手をかけて、」
「そうじゃなくて!幸村くんと黒峰のツーショットが!」
「…え」
「まるでこの世のものとは思えないほど美しくて、もう本当に目の保養…!そして思ったの、黒峰さんほどの人であれば幸村くんだけと言わずレギュラーの人達と仲良くしていたって文句ないって!」
「会長に激しく同意」
熱弁する会長に気圧されて沙蘭の顔は引き攣っていた。
しかしこれは大きなメリットなのではないかと沙蘭は考える。
彼らのファンクラブの会長である人に認められたとなれば、幸村との関係を隠して他人のフリをする必要も、その他のメンバー達にも必要以上に関わらないようにしてもらう必要もなくなるということだ。
そもそも、そうしてもらっていた一番の目的としては幸村及びテニス部たちと何も関わりがないように見せて、ファンクラブやその他の女子達に目をつけられないようにすることだった。
「私もっと幸村くんと黒峰さんが2人並んでいるところとか見たいなあ」
「会長、私は仁王くんと黒峰さんもお似合いだと思う」
「あ、確かに!ねえ、黒峰さん。ファンクラブのみんなにはきちんと説明してあなたに変なことしないように牽制しておくから、もっと幸村くん達と関わってもらえたりできないかな?」
しかしまさかその恐れていたファンクラブ直々にそんなお願いをされるとは思ってもみなかった。
沙蘭はじっくり考えて、それからコクリと頷いた。
何かを隠すことなく普段通りに過ごすことができるようになるのであれば、それに越したことはないと思ったからだ。
「学校ではお互いを知らないフリをして隠していたのだけれど、わたしと精市は実は幼馴染みなの」
「…ええ!?なんっておいしいの!!しかも名前呼び!」
「(おいしい?)だから、あなたがさっき言ったようにわたしの安全を保障してくれるのであれば精市とは普通に接させてもらおうと思うのだけれど…」
「その辺は大丈夫!もう既に幸村くんと黒峰さんカプ推しのファンクラブも新しくできてるくらいだから!」
「…カプ?」
「あ、そうだ。この写真撮ってくれた写真部にももっと撮ってもらえるようにお願いしてこないと!じゃあ、私達いくね!ありがとう、黒峰さん」
嵐が去り、シンと静まり返った屋上にポツンと残された沙蘭はスマホを取り出して幸村にメッセージを送った。
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