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狙われた男 [2/3]


先週の部活帰りの話だ。
ジャッカルと駅で別れて、そんで電車が来るまでまだ時間あったから駅地下で甘いもんでも買って帰ろうかと駅に入った。

無事に買い物が終わってトイレに行ったら、入り口のとこに変な人形が落ちてたんだよ。


「うわ、なんだこれ…」


そのまま見て見ぬフリしてれば良かったんだけど、人形なくしたって言って泣いてる子供が近くにいたからその人形かと思ったんだ。

俺はそれを拾ってその子供のとこに持っていった。


「ほら、これだろぃ?」

「…ちがうよ!あたしがなくしたのはクマさんのだもんっ」


俺が拾ったのは、気に金髪碧眼の所謂フランス人形みたいなやつ。
その子供がなくしたのじゃないらしく、俺は拍子抜けして仕方なく手に持ってた人形を駅員に忘れ物として届けた。


「アカイ、アカイ…」

「……っ!?」


それを手放すとき、どこからか高い女の子が聴こえて駅員が持ってる人形に目を向けたら。
人形なはずなのに口が小刻みに動いてて、目は明らかに俺の方を見てた。

もう気味悪くて気持ち悪くてさ…ほら、俺ホラー系めちゃくちゃ苦手じゃん?
1人で帰れなくなっちまってその日はジャッカルの家に泊まった。

それからなんだよ。
俺の携帯に非通知で電話がかかってくるようになったのは。

その電話だけマナーモードにしてても音が鳴るし、電源を切ってても着信がくる。
1日に最低でも2、3回はかかってくるんだよ。
そんで昨日の夜、思い切ってその非通知の電話に出てみたんだ。


「…おい、イタズラならもうやめろよぃ!」

「………ィ」

「き、聞いてんのか!?」

「オ兄チャンの、アカイ、チ…見せテ?」

「…っひ!」


それから、この今の時間まではまだ電話は鳴ってないみたいだけど。
正直、情けないことに怖くて仕方ねえ…。

だから部活の間もずっと、そのこと考えちまってた。





□ □ □



丸井がそこまで話終えると、しばらく沈黙が続いた。

赤也は青ざめた顔で怯えており、しかしその他のメンバー達はその真剣な表情を崩すことはない。


「丸井が拾った人形とその電話が関係している確率100%だ」

「…だよな。俺もそう思うわ」


丸井が乾いた笑いと共に柳の言葉に頷く。
死ぬかもしれないと彼が言ったのは『血を見せて』というその電話の相手の言葉からだろう。

ただ非通知で電話がかかってくるだけならば何かの悪質な悪戯もしくは殺人予告などの犯罪になる事象だ。
だがマナーモードでも着信音が鳴ったり、そもそも電源の入っていない携帯に着信がかかってくるというのは不可解すぎる。

(フランス人形、赤、電話…。まさか、)

柳はそこまで考えてハッと瞳を開いた。


「それ、もしかしてメリーさんじゃなか?」

「メリーさん…ってなんスか?」


仁王の呟きに、赤也が首を傾げる。

メリーさんとは捨てられた人形で、人間へ復讐するためにしつこく電話をかけてきて狙った人間のいる場所へ日に日に迫ってくるという。

そして最終的には。


「”あたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの”」

「ひぃ…!」

「ってな感じで、メリーさんは狙った人間をどうにかしてしまうって都市伝説じゃ」


怯えっぱなしの赤也に『この程度で怯えるとはたるんどる…!』と叱咤するが、実は真田もその手の話に弱いことを幸村は知っている。

(メリーさんか…)

幸村は本来、そういう類のことは全くと言っていいほど信じないタイプだった。
しかし沙蘭と幼馴染みになり自分にとり憑いた霊を祓ってもらうことが多くあるからこそ、その”信じない”は今や覆されているわけだが。


「それが本当にメリーさんだとして、俺はどうすりゃいいんだよぃ…」


大きな溜め息をついた丸井は、気を紛らわそうとしたのかテーブルの上に置いてあるポッキーを手に取ったが、やはりそういう気分にはなれないのか封を開けることなく元の位置に戻した。

(あのブン太がお菓子に手をつけないとは…こりゃ相当ヤバそうだ)

その様子を見た相方のジャッカルは、改めてそう認識する。


「その都市伝説の通りでいけば、丸井くんのところへメリーさんが日に日に近付いてくるということになりますが…それはどうやって知るのでしょう?」

「かかってきた電話を出た時に、メリーさんが今どこにいるのか教えてくるらしいぜよ」

「電話をとらないままでいたら?」

「…さあの。いつの日かいきなり自分の後ろにいたりするんじゃなか?」


柳生の問いに答えた仁王の言葉に、ビクリと肩を揺らした丸井。
その時だった。

―…ピリリリ。着信音が部室内に響き渡ったのは。


「……っ!お、俺…もう嫌だ…!」


すっかり怯えきった丸井は、首から下げていたタオルで顔を隠し耳を塞いで丸くなる。

緊張感が張り詰める空気の中、幸村はズボンのポケットで震える携帯を取り出した。


「大丈夫だよ、丸井。俺の携帯の着信みたいだ」


幸村の言葉に少し安心したのかタオルの隙間から顔を覗かせる丸井。
幸村はディスプレイに映し出された着信相手の名前を見て、驚いたような顔をしてから通話ボタンを押した。


「珍しいね、おまえから電話かけてくるなんて」


幸村の電話の相手が誰なのか気になった仁王は、彼が耳に当てる携帯に自分の耳を寄せてそこから微かに聴こえる声に耳をすませている。

(ほう。俺と同じかそれ以上に女嫌いなあの幸村が、女と電話しとるとはのう)

仁王が興味を持ち始め、それから数分後。


「じゃあこれからおまえの家に連れて行くから。今のうちに部屋の掃除しといたら?ふふ、そうかい。じゃあ、また」


ピッと電話を切った幸村は、緊張をほぐすように柔らかく微笑むと丸いの背中をポンッと叩いた。


「行くよ」
「な、は…どこに?」
「君を助けてくれる人のところ」


ドヤ顔で自分を見下ろす幸村が、丸井には神の子でなくもやは神にしか見えなかったという。


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