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肝試し [2/2]



今日の昼頃から、日吉は体調を崩していた。
昼頃からというよりは強い霊媒体質ある沙蘭と共に森に札を貼り終えた後から。


『手伝わせてごめんなさい…。いきなり霊力を使ったから身体が怠くなったりするかもしれないけれど、特に問題はないはずよ。でももし限界がきたらわたしに声をかけてちょうだい』


至極申し訳なさそうに眉尻を下げてそう言ってきた沙蘭を思い出して、日吉はキュッと下唇を少しだけ噛んだ。

この合同合宿で、自分よりも強い人達がたくさんいる中で吸収できるものをひたすら吸収して下剋上に近付ける努力をしなければいけない。そんな中で、こうも体調を崩して休んでいる暇などないというのに。

そもそも身体が怠くなるなんて軽いものじゃないし、ここまで酷くなるとは聞いていない。彼女のこともそう責め立てるべきだと思う、が。

(…あんな表情されたら、責められるわけないだろう)

そう思うのは、彼女の顔が良いからなのかそれとも何か別の理由があるのか。自分のことだというのに、それは日吉にはよく分からない感情だった。




□ □ □




「日吉くん、やったっけ?なんや顔色悪いけど大丈夫かいな」

「…そんな青い顔して足震わせてる人に言われたくないですね」

「なっ、いや…別に俺は怖ないで…っ?」

「「絶対ウソ」」

「ぐ…切原くんも越前くんも容赦ないな…」


最後から2番目であるこの4人のグループは現在、全部で7つある内の4つ目の蝋燭に火をつけ終わった頃だ。

このグループ唯一の3年生である忍足(謙也)は”先輩として頼りにしてもらいたい”という気持ちで日吉に声をかけたが、ヘタレ気質である彼は同じ学校の財前のみならず他校の後輩にすら弄られてその夢は儚く散った。


「ぎゃあ…!?」

「うおぅ…ッ!!」

「―…っ、いきなり何…」

「はあ…早く終わってくれ…」


茂みから飛び出してきた何かの生き物に驚いて大声を上げる切原と忍足。
霊とか以前にその叫び声が一番びっくりする、とイライラを募らせる日吉と越前。

ちぐはぐなグループではあるが、着々とルートを進み、最後の蝋燭に火をつけ終わったところで前方に小さな祠が見えてきて4人は足を止める。


「えっと…何するんやったっけ」

「聞いてなかったんですか?」

「は、ははは…」

「どうせ怖くて話聞いてなかったんでしょ」

「越前くん!?どうせってなんやどうせって…!」

「いちいち大声出さないでください。忍足さん正直、向日さんより喧しいです」

「……泣いてええかな」


ぐすん、とわざとらしく鼻を鳴らす忍足を容赦ないジト目で見つめる日吉と越前。
その一方で切原は最初に説明があった通り、赤い札を持ち帰るために祠の周りをキョロキョロと探す。


「おっかしいなー…。確かこの祠に赤い札置いてあるって言ってたよなあ?」

「そのはずだけど、無いの?」

「おう、って越前おまえも探せ!こういうのは後輩が率先してやるもんだろ。幸村部長が言ってたぞ」

「そっちの部長とか学校違うからどうでもいいし」

「ああ…!?」

「ま、まあまあ!切原くんも越前くんも喧嘩せんとさっさと赤い札探してとっとと戻ろう。な?」


睨み合っていた切原と越前は同時にフイッとお互いの視線を逸らすと、渋々と札を探し始める。
それを見ていた日吉はなんやかんやこの人(忍足)がいてよかったと安堵の息を吐いていた。

(それにしても、確かに見当たらないな…)

赤い札と言えば今朝方に木に貼り付けたものが頭に浮かぶが、持ち帰るべきは間違いなくそれではない。
準備する側が数を間違えていなければ、確実に全グループ分の赤い札が別に用意されているはずだ。


「あ!あったあった。なんだ祠のとこにあるわけじゃねーじゃん」

「お、良かった!そないなとこに貼ってあったらけっこう見つけるの難しいっちゅう話やなあ」

「祠だけじゃなくて木に貼ってあるのもあるとかめんどくさいこと考えるよね」


”木に貼ってある赤い札”。
それはまさしく今朝、何か危険があるといけないからと沙蘭と共に貼った退魔用のもの。

―――ゾクリ。
日吉の背中に冷たい風が吹き抜けて、ピシッと身体が一瞬硬直する。

次に彼の目に映ったのは、木に貼られた札に手を掛けてそれを剥がそうとしている切原の姿。


「―…、なっ…!」


声が全く出なかった。
次に切原を見た時には、剥がされた赤い札がその手にきっちりと握られていて。

その瞬間、ブワッと嫌な気が日吉の身体全身に纏わりついていて思わず尻餅をついてしまう。


「日吉くん!?どないしたんや…!」

「あ、…あ!」


日吉の目には。
自分を心配してこちらを見下ろす3人の後ろでニヤリと不気味に微笑む”ソレ”がハッキリと見えていた。

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