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きっかけ [2/4]




試合が行われている間、沙蘭はスコアボードの記入や怪我をした選手の治療にあたる為すぐに対応できるようになるべくコートから目を離さないようにしていた。

現在行われている試合は1面での鳳・柳ペアvs白石・桃城ペアのダブルス戦。そして2面では不二・財前ペアvs越前・ジャッカルペアのダブルス戦。

1面と2面のコートの間に立つ沙蘭は両脇のコートを交互に見ながら時折、誰がどのようなテニスをしているか等の自分が気付いたことをひたすらノートをとっていた。


「沙蘭ちゃん、まるで参謀みたいぜよ」


熱心にノートにペンを走らせている沙蘭の背後から声を掛けた仁王は振り向いた彼女の頬をプニッと人差し指でつつく。


「…雅治。あ、ちょっと!覗くのは禁止よ」

「ケチー」

「……………」

「…沙蘭ちゃん、どうかしたんか?」

「…ええ。ちょっと、みんなのテニスに圧倒されてしまって…」


コートを見る沙蘭の目は輝いていた。

宍戸と元々ダブルスを組んでいる鳳はさすがで、初めて組むであろう相手の柳としっかり連携がとれている。
そしてうまく連携がとれているのには柳の順応力と適応力、そして判断力が高いおかげでもあるだろう。

相手の白石と桃城も引けをとっておらず、基本に忠実であるパーフェクトテニスを得意とする白石のショットやリターンの技能の高さがずば抜けていた。
パワーのあるスマッシュやサーブを得意とする桃城と相性がとても良い。


「―…どーん」


桃城のダンクスマッシュが決まり、これで2対2。
3ゲーム先取した方が勝利となるため、あと1ゲームで勝敗が決まる。

(すごい…。立海の彼らのテニスも人並み外れていてとても驚いたけれど、まさか他の学校もここまでレベルの高いものだったなんて)

1面コートだけでもこの凄さ。
叶うならば全てのコートの試合を見たいと沙蘭は疼きを覚えていた。


「…俺の試合もそれくらい熱心に見てくれたらええがのう」

「もちろんよ!雅治のテニスは見ていてとても楽しいしすごいもの」


楽しみね、と沙蘭はやっとノートから目を離して仁王を見上げ微笑んだ。


「……ずるいのう」


呟いて、仁王は熱くなる頬を見られないようにそっぽを向く。

(これ以上好きなったらおかしくなりそうじゃ…)

仁王が自分の気持ちを落ち着かせている間に、沙蘭はチェンジコートをしようとする4人に声を掛けた。


「ラスト1ゲームの前に少しだけ休憩を挟みましょう」


思いのほか接戦で試合が長引いており、選手たちの体調も不安になってきた沙蘭はクールタイムをとった方がいいだろうと判断したのだ。

こちらへ向かってきた4人にタオルやドリンクを手渡していく沙蘭。


「黒峰さん、おおきに。さすがにキツイ思っとったんや」

「それだけ汗をかいているんだもの、出ただけの水分を補給しないと脱水症状になってしまうわ」

「そう言ってる黒峰さんもけっこうな汗かいとるの知ってた?」

「んっ。分か、ってるわよ」


白石は苦笑しながら、沙蘭のこめかみから首筋に滴る汗をまだ自分に使ってないタオルで拭いてやる。

(色気ムンムンやし良い意味で目に毒やなあ。せやけど…んん、エクスタシーや)

いつもの決めセリフを心の中で留め、白石は冷え切ったドリンクを喉に通した。
横からから刺さる詐欺師からの鋭い視線に気付かないふりをして。


「鳳くんと桃城くんもちゃんと水分とるようにね」

「あざっす!…っかー!やっぱ黒峰先輩のドリンクめちゃくちゃうまいっスね!」

「ありがとうございます、黒峰さん。あの、冷えていてすごく美味しいです!」

「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」

「ふむ。いつもより塩分を僅かに多くしたのか。これはこれで美味い」

「分かる?さすが柳くんね」


そして沙蘭は1面のメンバーにタオル等を配り終えると、今度は2面コートへと身体を向けた。
2面コートの試合も、とても長引いている。

お互いに天才と呼ばれる財前と不二の見どころ満載のテニス、そしてダブルスが苦手であるものの個人能力が極めて高いリョーマの自由奔放なプレイにしっかりと合わせたプレイを魅せるジャッカル。

(ノート、1冊で足りるかしら…)

沙蘭は興奮で震える手でペンを握り締めて、目の前の試合に目を凝らした。

そんな沙蘭の様子を、氷帝のキングは彼女を見定めるように静かに見つめていたのだった。
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