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それぞれの思い [3/3]




幸村により半ば強制的に白石と引き離された 沙蘭は、立海メンバーの集まる部屋へと連れて行かれてすぐに彼女を探していたブン太と赤也に『心配した!』と怒られたり、額の冷えピタのことを根掘り葉掘り聞かれたが”暑かったから”と言って適当にはぐらかしていた。


「ー…ねむい」


沙蘭が立海の部屋へ連れてこられてから2時間ほど。

トランプのジョーカーが自分の手元に1枚だけ残っているのを見下ろしながら沙蘭が呟くと、彼女の隣にいた仁王が『俺もー』と彼女の膝を枕にして寝転がった。


「また沙蘭ちゃんの負けじゃな」

「…トランプなんて…やったの初めてだも、の」


コクコクと頭を揺らして目を擦る沙蘭を下からジッと見上げる仁王。

(眠そうじゃのう。…あーほんとにかわええ)

現在、この部屋で起きているのは仁王と沙蘭だけだ。
柳と柳生そして真田は1時間ほど前にうるさくするなときちんと釘を刺してから布団に入り、今はぐっすりと就寝している様子。

ブン太と赤也とジャッカルも先程まではトランプに参加していたのだが、休憩している間に寝落ちしてしまったようでこの3人も夢の中である。
沙蘭のすぐ近くの布団の上に寝転んでいる幸村も目を瞑っているが、本当に寝ているかは微妙なところ。

(えっと、23時か…もういい時間ね)

沙蘭は壁に掛けられた時計に目をやって、立ち上がろうとするがそれは叶わない。


「雅治、わたしもう眠いから自分の部屋に戻るわね」

「ここで寝んしゃい」

「もしかして寝惚けてる?さすがにここでみんなと一緒に寝れないわ。他の人に知られたらまた跡部くんに何言われるか…」

「他の奴なんか気にせんでよか。沙蘭に何かあったら俺がどうにかしてやるぜよ」

「それは嬉しいのだけれど…」


大きな部屋を各校に1つずつ与えられている中で何故、同じ学校である自分や桜乃たちが彼らと一緒の部屋ではないかと言ったら"そういうこと"だ。
年頃の男女が同じ部屋で5日間も共に過ごすなんてこと一般的によろしくないことは誰でも分かる。

もし今自分がいるこの部屋で彼らと一緒に寝てしまったら。
跡部だけじゃなく、あの財前のように他の学校の人にまで今まで以上の悪印象を持たれてしまうことは回避できないだろう。

これ以上の面倒事は御免被りたい。
沙蘭は相変わらず自分の膝の上に頭を乗せて、いつの間にか腰にまで両腕を巻き付けてきている仁王の銀髪をさらりと撫でた。


「じゃあ、雅治が寝たら部屋に戻ることにする。それまでは…そうね、眠くなるようなつまらない話でもしようかしら」

「つまらんのか」

「ええ。ものすごく」


ふふ、と笑った沙蘭を仁王はそれを愛おしげに目を細めて見つめ、それからゆっくりと話し始めた彼女の心地良い声を聴きながら目を閉じた。



しばらくして。
沙蘭は話すのをやめて、仁王が眠ってしまったのを確認すると、彼を起こさないように膝から静かに退かして立ち上がる。


「―…精市も早く寝さないね。明日早いんだから」


隣に横になっていた幸村の鼻を人差し指でチョンと突いてから、沙蘭は部屋を出て行った。


「やっぱりバレてたか…」


幸村の狸寝入りは沙蘭には通用していなかったらしい。
仁王とイチャつき始めたのはさすがにイラついたしそれを邪魔することもできたのだが、幸村も相当な眠気と格闘していた為、それを行動に移すまでには至らなかったのだ。

(それにしても沙蘭のつまらない話、本当につまらなかったな)

クスクスと笑いを零して、今度こそ布団に入った幸村は真田のうるさいイビキに青筋を立てながら眠りについたのだった。

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