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波乱の幕開け [2/2]




「やあ、跡部。今日から世話になるね」


キランと輝きそうなほどの笑顔で挨拶をした幸村に、跡部は彼には珍しくヒクリと顔を引き攣らせていた。


「アーン?…しばらく見ないうちに随分とやつれたな。立海の奴ら」

「問題ないよ。バスの中であれほどクソうるさくできたんだから、元気元気。…そうだろ?赤也」


幸村は、肩にかけたジャージを揺らしてクルリと振り返った。

あからさまにビクリと肩を跳ねさせた赤也は、顔を真っ青にしながらブンブンと勢いよく首を縦に振っている。
沙蘭はその様子を可哀想に…と思って見ていたものの、あの状態の幸村に関われば関係のない自分にまで被害が及んできそうだと危惧して口を挟むことはない。

あの真田でさえ今の幸村に怯えていて、帽子を深く被っているほどだ。


「よう、黒峰」

「あら、跡部くん。こんにちは」

「合宿に来たからにはきちんと働けよ?サボったりするんじゃねーぞ」


ああ、もう本当にこの男は。
跡部の変わらないその態度と憎まれ口に、沙蘭の怒りのボルテージが上昇していく。

幸村に続いて沙蘭まで憤怒させては厄介だ、とその様子にいち早く気付いた柳が跡部と沙蘭の間に割って入った。


「跡部、予定によれば本格的に活動を始めるのは午後からだろう。早めに荷解きをしてウォームアップをしておきたい。部屋まで案内してくれないか」

「…フン、そうだったな。ついてこい」


鼻を鳴らし、口角を上げた跡部を背を向けて合宿所の中へ入っていく。


「はは。本当にいつ見てもムカつくね、あの勘違いナルシストは」

「あら、精市もそう思う?奇遇ね。わたしもよ」

「思わないわけないだろ?…決めた。この合宿中に跡部と試合組んで五感奪ってボコボコにする」

「大いに賛成するわ」


笑顔のままそんな会話をする幸村と沙蘭の一歩後ろで冷や汗をかく他のメンバーたち。

バス酔いがまだ残っているのか、仁王は青白い顔のまま『沙蘭ちゃーん、待ってくんしゃいー…』と助けを求めるように沙蘭に手を伸ばしているがその瞬間にフラリと身体を傾かせた為に柳生に支えられている。


「それにしても、跡部サンって沙蘭先輩の何が気に入らないんですかね?」

「気に入らない、とは違うな。前回の合宿のこともあり、マネージャーという存在を警戒しているだけだろう」

「ふーん。沙蘭先輩が今までの奴らと同じと思われるのはなんか嫌っすねー」

「だーいじょうぶだって!一緒に合宿なんてしてりゃ沙蘭がどんな奴かなんて嫌でも分かるだろい」


赤也と柳の会話に割って入ったブン太がガムで風船を作って笑う。

(ま、ライバル増えんのは勘弁だし沙蘭が嫌われた方が好都合っちゃ好都合なんだけどな)

しかしそんな歪んだ考えはただの自分勝手だ。
沙蘭という人間を知っていけば少なからず自分と同じように好意を寄せる奴も出てくるだろうが、 せっかくの合宿なのだし沙蘭にも楽しんでほしいとも思う。

そのためには他の学校の奴らとだって仲悪いよりは良い方がいいだろう。


「へっ。俺って心広いぜ!な、ジャッカル」

「は、なんだよいきなり」

「別にー…って、おいコラ仁王。沙蘭にくっついてんじゃねーよ!」

「うぐっ。揺らすなブンちゃん、吐きそうになるじゃろ…!」


沙蘭を挟んで言い争う2人を一喝したのは幸村。

こうして、5日間の合同合宿が幕を開けた。



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