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腐れキング [2/3]




東京にある氷帝学園は私立のマンモス校で、お金持ち達が集う。

男子テニス部には200人以上の生徒が在籍していて、数ある部活の中でも突出して部員の数が多い。
部長は跡部景吾といって跡部財閥の息子、御曹司というやつだ。(備考:玉の輿を狙うにはもってこいだろう)

1年で入学してすぐにテニス部の部長となり、そのカリスマ性と統率力で物の見事にその数多い部員たちの手綱を握っているという。


「―…跡部、ね。この人が精市の言っていた”腐れキング”…」


柳から渡された一枚のメモに書かれた情報に一通り目を通し、沙蘭は呟いた。
そして目の前にそびえ立つ大きな門と建物を見上げて、溜め息をひとつ。

(…今日が土曜日で幸運ね)

立海の制服に包まれている自分の姿をチラリと見る。
他校生が来ているとなれば注目されることは目に見えて分かることだし、敵視される恐れだってあっただろう。

穏便に事が済むに越したことはないと沙蘭は安心したように頬を緩めた。




□ □ □



学校内に足を踏み入れるとすぐに偶然にも教師が通りかかり、職員室まで案内してもらった沙蘭は目の前にいる氷帝学園のテニス部顧問だという榊太郎を目の前にして鼻を摘まみたくなるのを我慢していたところだった。


「これが合同合宿の詳細が記載されている資料だ」

「…ありがとう、ございます」


ポマードだ。榊の髪に塗りたくられているポマードの匂いが強烈なのだ。

沙蘭は失礼のないようにと顰め面になりそうなのを必死に我慢しながら、その時間を耐え続けている。

(香水もキツイわね…。教師がこれでいいのかしらこの学校)

この男を顧問に持つテニス部員を哀れに思ったが、彼の纏う雰囲気は厳格で人の上に立つべき人であることは分かるような気がした。


「神奈川県から東京までわざわざ足を運んでくれたこと、感謝する」

「いえ。あの、1つお聞きしたいのですが」

「何だ?」

「合宿の資料なのですが、マネージャーに取りに来させろというお話がそちらからあったようで。故にわたしは今日ここまで来たわけなのですが…その理由をお教えいただけないでしょうか?」

「…ふむ。私はそのようなことを言った覚えはないのだが、恐らく跡部の指示だろう」


腐れキングの…、と沙蘭は幸村の影響を受けてそう呟いてしまいそうになりハッとして口を抑えた。


「何が目的なのかおおよその理由は分かるが、本人から聞いた方が早いだろう。テニスコートへ案内しよう」

「あ、いえ!資料はもういただいたのでわたしは、」

「―…失礼します。榊監督、少しご相談が…」


ガラッと開いた扉から顔を出したのは、整った顔立ちに目元の泣きボクロが印象的な男。
彼は沙蘭の姿をその蒼い瞳に捉えると、何かを見透かすようにスッと瞳を細ませた。

(きっと彼が跡部くんで間違いなさそうね)

彼はとても強い気を持ち、そして何より自信に満ち溢れているのが分かる。


「跡部、ちょうどいいところに来た。立海のテニス部マネージャーの黒峰さんだ。お前が来るように言ったのだろう」

「…ええ、そうです」

「私は今から外へ出る用がある。何か話すことがあるなら、この職員室から場所を移せ」

「では、2階の視聴覚室をお借りします」

「うむ。ではいってよし!」


ビシッと人差し指をこちらに向けてくる榊は至って真面目な顔つきだ。

変な監督さんね、と沙蘭は誰にも聞こえない声で小さく呟いて『ついてこい』とぶっきらぼうに言い放つ跡部の後を追った。

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