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深まる縁 [3/3]




本人の言っていた通りきちんと根回しされているらしく、幸村達と沙蘭が学校で関わるようになっても特別彼女に被害が及ぶことはなかった。
時折、睨まれることはあるようだが沙蘭自身が元からそういったものをあまり真に受けないタイプであるためそこまで気にすることでもなかったが。

それは置いておくとして、今現在、男子テニス部の部室に連れ込まれているという現実のほうが沙蘭にとってはよほど重大なことであった。


「ということで、君にはテニス部のマネージャーをやってもらうことにした」


目の前でニコニコ笑いながら突拍子もないことを言い出した幸村に驚いたのは、沙蘭だけではない。

その話を一切聞かされていなかった他のレギュラーメンバー達も目を丸くして自分たちの部長である彼を凝視していた。


「…何がどうなってそうなるのよ」

「ファンクラブ公認の沙蘭以外に適任はいないと思って」

「マネージャーいなくても問題なさそうに見えるけれど?」

「確かに、前の根性無しミーハー女を辞めさせて以降は今までマネなしでやってきたけど…近いうちに他校との合同合宿もあるし俺達ももっとテニスに専念したいんだよ」

「テニスに一生懸命なあなた達だもの、何か手助けしてあげたいとは思うけれど…わたしは、」

「なら問題ないよ。その気持ちがあれば十分だ」


どうあっても、この幸村精市という男は沙蘭をマネージャーにするということを譲らないらしい。
こうなったら何言っても無駄だということを幼馴染み故によく知っている沙蘭は大きな溜め息を吐いた。

それから助け舟を出してもらおうと、柳や真田に視線を向けてみたものの。


「すまない、黒峰。俺も君が適任だと思っている」

「柳くん…」

「俺は黒峰のことはあまりよく知らんのだが、真っ直ぐと芯のある人間だと思っている。よって異論はない」

「真田くんはわたしを過大評価しすぎでは…」


柳や真田にまでそう言われてしまっては益々断りにくい。
しかしこれも幸村の思惑の内なのだろうと思うと、そんな簡単には頷きたくないと沙蘭の高くも低くもないプライドが抵抗する。


「何より幸村くんに信頼を置かれているわけですから、私も異論はありませんよ」

「俺も。黒峰って良い意味で他の女子達とは違うしな。任せていいと思うぜ」


続けて、柳生とジャッカルまでもがそう口を揃えた。

(何だか段々と羞恥心が募ってきたわ…)

沙蘭がほんのりと温まってきた頬にそっと手を当てて、どう返事をしようか悩んでいる内に追い打ちをかけられる。


「俺も異論なーし。てか、あるわけねーだろい!黒峰さんがマネージャーとか自慢できるしな」

「俺もっす!黒峰先輩にかっこいいとこ見せられるように俺がんばりますから!」

「もちろん賛成なり。黒峰さんがおるなら俺、サボらんぜよ?」


ブン太に赤也、そして仁王。

これはもうオーバーキルに近い、と沙蘭はギュッと下唇を噛んだ。
その様子に気付いた幸村がふふっと意味深に笑う。


「黒峰がマネージャーになってくれることによるメリットは相当なもののようだ。しかし、無理強いさせることでもないだろう。黒峰の答えが聞きたい」

「………っ」

「…黒峰?」


バッとみんなに背を向けてわずかに肩を震わせる彼女の様子に、幸村以外のメンバーが心配するようにそれを見つめていた。


「あーえっと…黒峰さんが嫌なら嫌でそりゃ仕方ねーし、無理にとは言ってないから俺たち!」

「ええー!俺は絶対に黒峰先輩がいいっす!」

「ばか赤也!空気読め!」

「痛っ!丸井先輩ぶたなくてもいいじゃないっすか…!」

「俺も黒峰さんじゃなきゃ嫌じゃー」

「仁王おまえな、!」

「ふふ、大丈夫だよ。沙蘭は照れてるだけだから」

「え、照れてる…?」


幸村の言葉に、その場にいる全員が目を点にする。
悔しいがな幸村の言う通りだと沙蘭は背中にチクチク刺さる視線を感じながら、顔の熱を冷まそうと必死になっていた。

彼女がここまでの反応を見せるのには理由があった。

人ならざるモノが見えたり、それと接触できる能力があるということを知った人間は沙蘭を怖がり、近付こうとせずに彼女を避けるようになるのが殆どだ。
故に、今自分を囲んでいる彼らはそれを知った上で尚、怖がったり遠ざけようとすることもなく寧ろ顔見知り以上の関わりを持とうとしてくれている。

それが沙蘭にとっては驚くべきことで…そして喜ばしく、光栄で、とても嬉しいことなのだった。


「―…やる」


振り向いて、あくまで視線は床に投げた状態でそう小さく呟いた沙蘭。


「わー、黒峰先輩顔真っ赤すね…」

「やっべえ俺、今すっげー胸キュンしたぜい」

「…ライバル増えるの、勘弁なんじゃがのう」


顔を上げてから沙蘭が初めて目を合わせたのは幸村で、彼はふと目元を緩ませて綺麗に微笑んでいた。

(ほんとに、敵わないんだから…)

ふう、と息を吐いて同じように微笑むと沙蘭はペコリと頭を浅く下げる。


「これからよろしくお願いします。精一杯頑張るわ」

「テニス部へようこそ」

「合宿先でこの間みたいにまた何か事件でもあった時の為でもあるのよ?精市は特に憑かれやすいんだから」


そんなこんなで沙蘭は男子テニス部のマネージャーとして迎え入れられたのだった。

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