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メリーさん [2/3]



それからブン太は1日に1回以上かかってくる電話を無視することなくきちんとすべて出るようにした。
さすがに授業中に着信音が鳴るのは勘弁してほしいと授業の間は部室に携帯を置いておくようにしようとしたようだが、その心配はないようだった。

というのも、メリーさんからの電話は今までも夜にしかかかってきていないことから、沙蘭は昼間にかかってくる可能性はゼロに近いと判断したのだ。

1回着信に出なかっただけですぐ命をとられるというころでもないので、もし昼間にも着信の履歴が入っているようであればそれはブン太から報告がくるようになっていた。


「それにしても、毎回毎回こえー…」

「んな大袈裟っスよ先輩!電話出るだけじゃないスか」

「赤也おまえなー…ッ!」

「ぎゃー!痛い痛い!首絞まってるっす…!」


昼休み、テニス部レギュラー陣は屋上に集まって昼食をとっていた。

メリーさんからの電話を受ける度にあの子供のような高い声で笑われたり血を見せてと言われたりすることには一生慣れることはないだろう、とブン太は後輩の頭に腕を巻き付けながら思う。

一番怖かったのは、昨夜の電話だ。

『アたシ、メリーさん。イマ、東京駅にいるノ』

けっこう詳しく場所を言ってくるんだなと拍子抜けしたのも事実だが、東京から神奈川なんて電車一本ですぐ着く。
なんてことを考えているとすぐにまた着信が鳴り、今度はもうすでに横浜にいると言われた。
着実にメリーさんが近づいてくるのが分かってその電話の後すぐに沙蘭へ電話をかけて報告したのだった。

(そもそもメリーさんって電車とか乗ってくんのか…?)

どうでもいい疑問がブン太の頭の中に浮かぶが、今は学校生活の中で一番楽しみな食事の時間だとメリーさんのことは考えないようにしようと頭を振る。


「そういえば、お前さんら昨日どこに行ってたんじゃ?」

「あ、俺もそれ気になります!」


仁王に便乗するように赤也が手を挙げると、ブン太はあからさまに視線を逸らし、柳はチラリと幸村を一瞥しただけで何も言うことはなかった。

沙蘭と幸村が関わりがあることを秘密にしてほしいと言われた手前、同じデニス部の仲間相手でもそれを言うのは躊躇われたからだ。


「俺の知り合いのところだよ。力のある霊媒師でね、丸井の件も助けになってくれると思ったんだ」

「ブン太の件"も"?」

「ああ。そいつ曰く、俺ってそういうの憑きやすいらしいからよくお祓いしてくれるんだよね」


ジャッカルの問いに答えた幸村は今朝、沙蘭に自分だけに作らせた弁当を食べ進める。

手作りの和食で埋め尽くされたそれに、幸村は大満足な様子で、元々はそこまで食べる方ではない彼も沙蘭の作ったものはつい食べ過ぎてしまうようだ。


「ふん!幽霊など存在するわけなかろう!」

「真田くんは信じないんですね、そういうの」

「当たり前だ!俺は自分の目で見たものしか信じん。そういうお前はどうなんだ、柳生」

「私ですか?私は存在すると思っていますよ」


正確には存在していてほしい、ですが。
キラリと眼鏡を逆光で光らせる柳生は、そういえばSFの類が好きだったなとそれを聞いていた柳は自分の中から彼のデータを引き出した。


「真田は幸せな奴だね」

「む。どういう意味だ幸村」

「そういうのが見えて良い顔してるのなんて俺は見たことないから。見えない方がいいものが見えないってのは幸せだと思わないかい?」


そう無表情で言い放つ幸村の頭の中には沙蘭がいた。

まだ年端もいかぬ頃、幼稚園で霊が見えてしまう度に怖い怖いと泣き喚いて先生たちに縋っていた彼女を思い出したからだ。
そうなった後の沙蘭は必ずと言っていいほど幸村の後ろにぴたりとくっついて離れなかった。

(あの時は素直で甘えたで可愛かったんだけどなあ)

あんな憎まれ口を叩き合うようになったのはいつからだったか、と幸村が考えを巡らせていると自分以外のレギュラーメンバーがなんとも言えない表情でこちらを見ているのに気付く。


「…まあ、とりあえず。丸井のことはそいつに任せておけば大丈夫だから、今日の部活も気合入れて頑張ってくれ」


苦笑気味に、けれど言葉は強く。
幸村の言葉に各々が反応を見せたところで、もうすぐ昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響いたのだった。
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