テニプリ連載 | ナノ
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初授業の日




立海に入学してから初めての授業。
まずは、と担任の先生が黒板に書いた4文字にわたしの顔は自分でも分かるくらいに強ばったに違いない。

『自己紹介』

声が出ないわたしにとって、まさに苦痛の時間になるであろうことは間違いなかった。
1人、また1人と自己紹介を終えていく中でわたしの緊張は振り幅を超えようとしていた。

どうしよう、わたしが喋れないって知られたら…なんでここにいるんだって絶対思われる。
障害者は障害者らしく、なんて言われ…。


「仁王雅治。好きなもんは肉とテニス」


その瞬間、女の子の黄色い悲鳴に思考を引き戻されてビクリと身体が跳ね上がった。
隣に視線を向けると、透き通るような銀髪をチョロリと後ろで短く結んだ男の子がガタリと音を立てて椅子に座る。

周りを見てみると、女の子たちがみんな顔を赤くしてたりキラキラした目で彼に熱い視線を向けているのが分かって納得した。

さっきの悲鳴は、この人がカッコよくて興奮しちゃった的なやつみたい。
ふう、と小さく息を吐いて気を落ち着かせて目を開けるとバチリと隣の席の彼と目が合った。


「なあ、」
「…っ(は、はい)」


声は出せないのに咄嗟に口パクで返事をしてしまい、彼はピクリと器用に片眉を上に動かす。

あ、やばい…早くメモ帳を…っ。


「えーっと、次は夕雲か。みんな、この子は事情があって声を出すことが出来ないんだ。色々と不便なこともあるだろうから、支えてあげるんだぞー」


鞄をあさるわたしの耳に入ったその言葉に、メモ帳を探す手がピタリと止まり勢いよく立ち上がった。


「………っ、」


声が出せない。
そんなわたしを色々な感情を持った瞳が射抜く。

冷や汗がこめかみを伝うのが分かり、これ以上は耐えられない!とバッと会釈をして素早く着席した。


「はあ、っ」


覚悟していたはずなのに、それでも震え始める両手に泣きたくなる。
弱すぎじゃんか、わたし…。

ギュッと握り拳を作って膝の上に起き、早くこの時間が終わらないかとそればかり考えていた。






やっと自己紹介も終わり、1時間目が終了する。
それぞれがすでに仲の良いグループを作り始める中、わたしは自分の席から動けないまま鞄から携帯を取り出した。

RINEを開くと、2件の通知がある。


〈クラスには馴染めそうかな?仕事も落ち着いてきたし、近いうちに顔を見に行くよ〉


叔父さんからのメッセージに、ホッと安心するのが分かった。

馴染みたいけど馴染めない、です。
弱音を吐いてしまおうかとそう途中まで打って消す。


〈頑張ってみます〉


それだけ返事をして、次の通知を見た。


〈今日の昼食、一緒にどうだ?〉


先日RINEを交換したばかりの蓮二くんから。
嬉しくて、顔がニヤついてしまいそうになるのをグッと堪えて画面を素早くタップする。


「是非、お願いします」
「……っ!?」


わたしが打っていた文字がそのまま誰かの声によって読まれて、ビックリしてひっくり返りそうになった。

一体誰が盗み見を…!
その犯人は探すまでもなく、すぐに見つけることが出来た。

頬杖をついてわたしを見つめる、口元のホクロが印象的な…確か仁王雅治くんだったような。


「お前さん声がでないんじゃろ?」


変な訛りも特徴的。
それに、一番突いて欲しくないところを指摘してくるあたり…ちょっと無神経な気がする。

ムッと頬を膨らませて、メモ帳に『そうですけど何か!』と殴り書きして彼に突きつけた。


「なるほど。お前さんと喋りたい時はそうやって会話すればいいんじゃな?」
「…、!」
「ずっと震えて緊張しとって聞いてなかったと思うがの、俺は仁王雅治。隣の席じゃ、よろしくのう」


そう言ってニッと口角を上げる仁王くんに、ポカンと口が開いてしまう。

だってもっと何だかこう、意地悪なことを言われるのかと思ったから…。
わたしもちゃんと自己紹介しないと、とメモ帳にサラサラ書いている間に仁王くんは女の子に取り囲まれてしまってそれを見せる隙がなくなってしまった。

んーと…とりあえずさっき出来なかった蓮二くんへの返事をして次の授業の準備をしよう。
タイミングはきっとこの先いくらでもあるはずだもの。