そもそも真田くんを探すのに放課後だったのが間違いだったんだ。
そのことに気付いたわたしは今、真田くんのクラスであるC組の教室の前でうろちょろしていた。
授業の合間の休憩時間中のせいもあって人の出入りも多く、真田くんをなかなか見つけられない。
入り口から教室を覗いてみて、いなかったらもう諦めよう…。
そう思って教室の後ろ側のドアからチラリと中を覗けば、一番最初に目に入ったのは見知った人だった。
「(わー、幸村くん…すごいな)」
一番後ろの席に座るふわふわの藍色の髪の持ち主である、幸村くん。
たくさんの女の子に囲まれていて、苦笑気味にお話しているのが見える。
確かに幸村くんかっこいいいからなあ。すごいモテモテだ。
あんな状態の彼に声をかける勇気は残念ながら持ち合わせていない為、やっぱり自力で真田くんを…。
ギュッと教室のドアを掴んで、幸村くんに返事をした方がいいのか悩んでいると。
「…夕雲か?」
「(真田くん!やっと見つけた〜…!)」
後ろから肩を叩かれて、振り向けば探し人。
「ここで何をしている?おまえはこのクラスではないだろう」
大袈裟にホッと息を大きく吐いて曖昧に微笑んでから、手に持っていた紙袋と、この間のお礼ですと書いたメモを手渡した。
真田くんは紙袋をすんなり受け取ってくれて、少しだけ表情を緩めてくれる。
「礼など気にせずともよかったものを…」
「(ほんとに助かったから、お礼したくて!それと、これ返しておくね)」
「もういいのか?」
「(うん。着替える時に引っ掛かってとれちゃったみたいで、部屋のベッドの下にあったんだよね)」
「そうか。以後、気を付けろ」
返事をする代わりにビシッと小さく敬礼をして笑えば、真田くんにポンポンと頭に手を乗せられた。
なんだか子ども扱いされてる気がする。確かに真田くんに比べれば身長はだいぶ低いけどさ。
真田くんにお礼も渡せたしそろそろ自分の教室に戻ろうかと思い、ふと幸村くんにもう一度視線を向けたら。
「―…夕雲さん?」
バチリ、と目が合い幸村くんが呟くように言ったのと同じくして、周りにいた女の子たちからキッと睨まてしまう。
「幸村くーん、あの子と知り合い?」
「えー、でも一緒にいるの見たことないけどなあ」
「友達?」
甘ったるい猫なで声で幸村くんに次々と声をかける女の子たちに、わたしは今すぐこの場から立ち去りたくなる。
でも幸村くんに名前を呼ばれた手前、それを無視してしまうのも気が引けるし…。
というか女の子たちにすごく睨まれているんだけど…なんであんなに敵視されてるんだろう、わたし何もしてないのに。
―――そして。
「…あ、いや。友達じゃないよ。人違いだったみたいだ」
焦ったように言った幸村くんの言葉に、時が止まる。
『だよねー!』と口を合わせて言う女の子たちに幸村くんは控えめに、笑う。
そっか…お友達だと思ってたの、わたしだけだったのか。
なんて恥ずかしい思い込みなんだろう。
幸村くんからは友達だなんて思われてないっていうのにさ。
ズキズキと痛み出す胸を押さえて、目の奥が熱くなる。
「夕雲、?」
「………っ(真田くん。わたしと真田くんは友達だって…そう思っても、いい?)」
もう勘違いしたくない、と震える手でそう書いて真田くんに見せると彼はスッと右手を差し出してきた。
「…ああ。俺と夕雲は友人だ」
彼の大きくてゴツゴツした手をギュッと握り返し握手して『ありがとう』と声にならない声で呟いた。
幸村くんと友達になれなかったのは残念だったけれど、ワガママになってはいけないと自分を叱る。
この間の空中庭園で撮った写真を幸村くんに送ってしまったけれど、それもきっと彼にとっては迷惑だったんだろう。
だからきっと、それに対しての幸村くんからの返事は来ないままなんだ。
「…夕雲?何故泣いて、」
「(…真田くんとお友達になれたのが嬉しかっただけだよ。じゃあ、もう戻るね)」
走り書きを押し付けるように渡して、わたしは自分の教室へと戻ったのだった。
≪ ≫