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始まりの唄



声が出なくなって一番哀しかったのは、喋れないことじゃなく…歌えなくなることだった。


***


気まぐれで買った小さなサボテンが、棘に包まれたからだに花を咲かせた朝。
今日からわたしは、立海大付属中学校に入学する。

真新しい制服に身を包んで、自慢の長い髪をポニーテールで結んだ。


「(それにしても…)」


きちんと声を出して人と話すこともできないわたしがこんな普通の学校に入ることができるなんて、まだ夢みたい。

それもすべてお父さんの兄であり立海の理事長補佐を務める叔父さんの厚意あってこそだ。
今年からわたしが1人で住み始めたこのマンションも叔父さんの所有しているもので、忙しいはずなのに1週間に1回は必ず様子を見に来てくれる。


「…(本当に、感謝してもしきれない。でも、)」


可愛い姪っこの為だよ、なんて優しく笑う叔父さんに甘えっぱなしではいけない。
できるだけ早く独り立ちをして、お世話になった人達に恩返しできるようにならないと。

テレビを消して、そろそろ家を出ようかと玄関で靴を履いているとポヨン!と携帯が鳴った。


<いよいよ入学だね、色んなことをたくさん学んでおいで。ちなみに秋人は理系だったけど、茜ちゃんはどっちだろうなあ(^^)>


叔父さんからのメッセージで普段使わないような顔文字を使った文面に、ふはっと吹き出してしまった。


<わたしが苦手なのは体育くらいですよ。いってきます!>


そう返事をしてスタンプをひとつ。
入学式は生憎の雨模様だけど、気分はそんなに悪くない。


「(いってきます)」


玄関のシューズボックスの上にある写真立てに笑いかけて、わたしは玄関のドアを開けた。