テニプリ連載 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

初授業の日




そよそよと春の風が吹き抜ける中庭で、蓮二くんとお弁当をつつく。

蓮二くんのお弁当は和食がとてもバランスよく入っていて美味しそう…と思って見ていたら、彼はふっと笑ってわたしのお弁当に蓮根のはさみ揚げを1つ乗せてくれた。


「そういえば、茜は部活はどうするんだ?」
「(…まともに声を出して話せないわたしがどの部活に入っても迷惑かけてしまうだろうし、入らないつもりでいたかな)」


蓮二くんの問いに返事を書いて、シャリシャリと気持ちのいいレンコンの歯ごたえを楽しむ。

本当は、部活に入ってみたかった。
音楽とか楽器が好きだから吹奏楽部でも良かったし、歌うことももちろん好きだから合唱部とかも。

でもそれは何れにしても、普通じゃないわたしには叶わないことだと覚悟はしていたから。


「茜、」
「……っ(蓮二くんは何部に入るの?)」
「…俺はテニス部に入るつもりだ」


何故だかわたしに伸ばしていたらしい手を引っ込めて、蓮二くんは食べ終わった後のお弁当箱を片付け始めていた。
その様子に疑問符を飛ばしながら首を傾げ、それから思考する。

確か、小学校の時に出会った彼もテニスをしてたような気が…。当時は携帯なんて持ってなかったから連絡先なんて知らないし、彼がどこの学校に入学したかも分からない。
久しぶりに会いたいなあ、なんて。


「茜が他の誰かのことを考えている確率87%」
「(…確率?)」
「俺は他者のデータをとり、分析することが得意なんだ。テニスのプレイスタイルにもそれを取り入れている」
「(へー!すごい。蓮二くんのデータテニス…すっごい興味ある)」
「部活が始まればいくらでも見に来れるだろう。…それで、誰のことを考えていたんだ?」


蓮二くんがスッと目を開けて真剣に見つめてくるものだから、わたしは笑いをこぼす。


「(分析が得意な蓮二くんなら、当てられるよね?)」
「…ほう」
「っ、!(ちょっと、なんでほっぺ摘むの)」
「なんとなくだ」


そんなに強い力じゃなかったから全然痛くないからいいけどさ。
それ何故だか蓮二くん、どことなく楽しそうというか機嫌良さそうなのは一体…。


「おまえのデータ、心置き無くとらせてもらうぞ」
「(プライバシーだけ守ってもらえるなら…)」
「さあな。聞こえん」


中学へ入学してから初めてできた友達と初めて一緒にお昼ご飯を食べたこの時間は、とても楽しくて心温まった。






休憩時間も終わり蓮二くんと別れた後、スキップしそうな勢いで教室へ戻ればわたしの席の周りに人集りが出来ているのが見える。

え、何あれ。集まってるのが女の子ばかり…ってことはつまり?


「へえー!テニス強いんだあ!」
「カッコイイのに運動もできるなんてすごーい!」
「テニス部入るんだよね?あたしマネージャー応募してみようかな!」
「ええ!?抜け駆け禁止ー!」


あのー、もう5時間目始まっちゃうのでそこどいてもらえませんか。
なんてあの集団に言える勇気はない。

それにしても困った、本当に。
囲まれてる当人である仁王くんは、騒ぐ女の子達を無視して大きく溜め息をついている。


「君達、もうすぐ授業が始まりますよ。席に戻った方が良いのではないですか?」


鶴の一声、助け舟とはまさにこのこと。
仁王くんの周りにはたむろする女の子達を注意したのは眼鏡をかけた、いかにも優等生みたいな男の子。

注意された女の子たちはブツブツ言いながらも自分の席に戻っていってくれて、わたしもホッと息をついて自分の席につけた。


「…疲れたぜよ。あいつらうるさいし」


授業の準備をしていると、そんな小さな呟きが隣から聞こえて弾かれたようにそちらを見る。

机に突っ伏した状態で、顔だけわたしの方に向けた仁王くんは口を尖らせて不機嫌そうだ。

まあ、確かに仁王くんは顔も整ってるしモテるのも分かるけど…あんなに構われたら疲れちゃうよね。アイドルとは違うんだし。


「(…おつかれさま?)」


そんな短い言葉を書いたメモと一緒に、わたしが好きなオレンジ味のキャンディを1つプレゼントする。
それを受け取った仁王くんはちょっとだけ目を見開いて、それからそのキャンディをポイッと口に放り込んだ。

ふわりと香る柑橘の香りにわたしまで癒されて、ふにゃりと顔を綻ばせていると仁王くんはわたしが渡したメモに何かを書き込んでいる。


『サンキューなり。明日もこれちょーだい』


お、何だかあのキャンディーを気に入ってもらえたみたい。

返事をしようとしたところで先生が教室に入ってきてわたしはメモ帳をサッと仕舞う。
返事の代わりに、と隣の仁王くんにグッと親指を立ててオッケーを伝える…と。


「ぶはっ!くくくっ…」


なぜかお腹を抱えて笑われました。
よく分からない人だなあ、仁王くんって。


そんなこんなで入学初日は無事に終えることができ、明日も何事もなく終われますようにと願って眠った。