テニプリ連載 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

近付く距離




ツカサちゃんと喋りながら昇降口から出ると、視界の端にテニスコートが映って自然とそちらに目を向ける。


「………!」


その時。
フェンス越しに、ふと綺麗な銀髪の彼とバチッと目が合った…ような気がした。
気付いてくれるか分からないけど、仁王くんがんばれー、と心の中で思いながら控えめに手を振る。

するとそれに気付いてくれた仁王くんは口角をわずかにあげてニッと笑い、右手を自分の口につけて離す動作をしてくる。


「(…ん?あれって、)」
「おえっ。今あいつ完全に茜に向けて投げキッスしたよな…おえっ」


隣で嘔吐するようなフリをするツカサちゃんを見て、やっぱりあれは投げキッスだったんだと認識した。

わーわー。フェンスの外にいた女の子たちの黄色い悲鳴がスゴすぎるー…!
その様子を見るともしかしたらわたしにじゃなくファンサービス的なものだったのかもしれないけど…なんて罪作りな男の子なんだろう、仁王くんは。






それからツカサちゃんとアイスを食べるために少し寄り道をして家に帰り、夕飯とお風呂を済ませて布団にダイブしたらRINEが届いていた。


〈俺の投げキッス、受け取ってくれたかのう?〉


それは言わずもがな仁王くんからで、わたしは髪の毛を拭く手を止めて返事を打った。


〈あれわたしにだったの?仁王くんのファンの女の子たちへのサービスだと思っちゃった〉
〈俺の投げキッスはそんな安売りしないぜよ〉
〈えー、そんな高いの?仁王くんの投げキッス。いくら払えばいいんだろ〉


仁王くんの軽口に乗って返事をすると、今までポンポン返ってきたはずのRINEが止まる。

トイレか何かかな。とりあえず今のうちに髪の毛乾かしちゃおう。
伸ばしていたら切るのが勿体なくなってしまって、ずるずると腰くらいまで伸びてしまっている髪を綺麗に保つのには手入れが大変だ。

仕上げに洗い流さなくてもいいトリートメントを髪に塗っていると、ポヨンと通知音が鳴る。


〈すまん、姉貴から電話じゃった〉
〈大丈夫だよ!その間に髪の毛と乾かせたし〉
〈明日の昼、一緒に食お?弁当作ってきてほしいなり。それで取引成立じゃ〉


取引って投げキッスの?
仁王くんの言葉に思わず吹き出してしまって、返事を打つ手が少しだけ震えた。


〈安売りしないんじゃなかった?お弁当なんかでいいならいくらでも作るよ〉
〈茜の作った弁当が安いわけなか。楽しみにしとるぜよ。あ、肉いっぱい野菜少なめで〉


その後にヒヨコが小さな両手でバツを作っているスタンプが貼られてきて、わたしはまた笑ってしまった。

よし、明日の朝はお弁当2つ作らなきゃいけなくなったし今日は早く寝ようかな。
そういえば誰かにお弁当作るのなんて初めてだなあ、なんて思いながら目を閉じた時、今度はRINEとは別の通知音が鳴って目を開いた。


<茜さーん!さっきテレビでこわいのやっててそれ見てたら寝れなくなったっすー!!>


それは、赤也くんからのメール。
そんなメッセージの後ろに涙を流す顔文字が何個もついていて、涙目になった赤也くんが想像できて怖がっている彼には申し訳ないけどクスリと笑ってしまう。


<お母さんに一緒に寝てもらうのはどう?>
<俺そんなガキじゃないっすよ!でも茜さんの顔見れたら俺寝れる気がする!>
<顔見るって、どうやって?この時間から外に出るのは危ないよ>
<テレビ電話があるじゃないっすかー!んじゃかけますねー!>


赤也くんからのメールの返事を見てすぐにピリリと鳴り出す携帯。

え、ちょっと嘘だよね?この子、わたしの都合はお構いなしですか!?
もう布団に入って寝る態勢だったし何よりパジャマ姿だしテレビ電話なんて、会って話すよりなんか恥ずかしいじゃないですか…!

こうして焦っている間もしつこいくらいに着信音は鳴り響いていて、とりあえずとわたしはその電話を出た。


『おー、茜さんだ。やば!パジャマ姿かわいいんすけど…!』


携帯の画面に映し出された赤也くんは何が嬉しいのかニコニコ笑いながらわたしに向かって手を振っている。


「(赤也くんの、ばか)」
『…っ茜さん、めっちゃかわいー…どうしよ』


画面の中の赤也くんを出来るだけキッと鋭く睨みつけて近くにあった小さなメモにそう書いて見せると。画面越しの赤也くんはボフン!と布団に顔を埋め込んで何かボソボソと呟く。なんだろう、変な赤也くん。

そしてその夜はとてもテンションの高い赤也くんが喋り疲れて電話を繋げたまままま寝落ちしてしまい、わたしが目を閉じたのは夜の1時過ぎになってしまったのだった。