大学付属の中学校なだけあってやっぱり広い、そして大きい。
わたしと同じ今年入学の子達が、両親と笑い合いながら入学式が始まるのを待つその様子にツキンと胸が痛みを感じたような気がした。
無意識に、お母さんの形見であるネックレスを制服越しに撫でて小さく溜め息を吐く。
「1人なのか?」
「……(えっ)」
声をかけてきたのは女の子にも見える男の子で、閉じられた瞼とサラサラと風に揺れる切り揃えられた髪が印象的だった。
えっと、と慌てて鞄からメモを取り出して『はい、1人です』と書いて見せる。
目閉じたままだけど見えてるのかな…?
わたしが見せたメモを目を閉じたまま見つめた彼は、メモから目を外すとわたしを見た。
これはきっと何で口で喋らないのかとか聞かれる予感。
「実は俺も1人なんだ。入学式が始まるまで、良ければ一緒にいないか?」
「………っ」
驚くべきことに、彼はわたしが声を出さない理由を問うことはしなかった。
びっくりし過ぎてなんの反応もできないでいると、彼は少しだけ眉間に皺を寄せて『迷惑だったか?』と小さな声で聞いてくる。
そんなことない!と勢いよくブンブンと頭を横に振って『一緒にいましょう!』とメモを見せた。
「ふ、俺は柳蓮二だ」
「(夕雲茜です)」
自分の名前を書いて見せると同時にニコリと微笑む。
だってなんだかとても嬉しかったから。
声をかけてくれたことも、追及しないでくれてることも、わたしが普通じゃないと知っても一緒にいないかと誘ってくれたことも。
それから入学式が始まるまで柳くんとちょこっとお話して、残念ながらクラスは違うということが分かった。
「(柳くんは、っと…あ)」
「蓮二でいい。俺も、茜と呼んでもいいか?」
柳という字を書いている途中で手を止められ、そう言われる。
みるみるうちに顔に熱が集まり、涙が零れそうになった。
そんなわたしを見た柳…いや、蓮二くんはギョッとしていて初めて今まで閉じられていた目をスッと開く。
「…すまない、名前で呼ばれることがそこまで嫌だとは…」
「(違います!そんな風に言ってくれる人ってとても少ないからその…嬉しくて)」
殴り書きでとても汚い字だったと思う。でも勘違いされたくなかった。
メモを見た蓮二くんはフッと綺麗な笑みを零して、メモ帳を握り締めるわたしの手にそっと触れる。
「クラスは違うが、これからよろしくな。茜」
「…っ(うん!宜しくお願いします)」
ペコリと頭を下げたところで、入学式がもうすぐで始まるらしく新入生は整列しなければいけないみたいだった。
もう少しお喋りしていたかったな…クラスが違うとなるとこれからそんなに一緒にいれたりできないんだろうし。
ちょっと残念に思ってしょげていると、蓮二くんはわたしのメモをサッと取り上げて何かを書き込み始めた。
それをひょこりと覗こうとする前に書き終わったらしく、メモ帳を返してくれる。
「じゃあ、またあとでな」
コクリと小さく頷いて手に持つメモに目を向ければ、携帯の電話番号とRINEのIDが書いてあった。
『いつでも連絡してきていい』
とても綺麗な字でそう書かれたメッセージに、胸が暖かくなる。
メモ帳を大事にカバンにしまって、わたしは蓮二くんと同じように新入生の列に並んだ。
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