テニプリ連載 | ナノ
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近付く距離




「それにしてもその女共まじでムカつくな。あたしがシメてやってもいいんだけどなあ」


トントンと階段を下りながらツカサちゃんはぼやく。図書室から出てからずっと似たようなことを言っていた。

わたしに仕事を任せた女の子達がどうしても許せないらしく、ツカサちゃんは頭を乱暴にかき回しながらイライラしている。

自分のためにここまで怒ってくれる人がいるってすごく嬉しいことだけど、ツカサちゃんに何かあったら…そっちの方が嫌だ。


「(大丈夫だよ。ああいうの今回が初めてだったし…またそうなりそうだったらちゃんと断れるように頑張るから)」
「はあー。嫌なことは嫌ってちゃんと言えよ?そういう奴はすぐ調子乗るからな」


コクコクと頷いて階段の踊り場を曲がった時。


「早く早く!テニス部の練習終わっちゃうよ!」
「ちょっと待ってよ!」


後ろから聞こえてきた忙しない足音と、女の子たちの焦ったような声。

気付いたときには身体にドンッという衝撃が走り、足が地面から離れてしまっていた。


「…っ茜!」


ツカサちゃんの叫び声が聴こえて、ハッとする。
あれ、これもしかしなくても階段から落ちてるんじゃ…っ!

まるで時が止まったかのように、視界に映るものがスローモーションになっている。
だんだんと近付いてくる階段と地面が見えて、ぶつかる!とギュッと目を閉じた。


「………、?」


やってくるだろう痛みを覚悟して目を瞑ったけれど、いつまで経ってもわたしの身体は痛みを感じない。

不思議に思って恐る恐る目を開けてみると、誰かに身体を支えられているのが分かった。


「はあー…マジでびびった。ナイスタイミングだぜ、ジャッカル」


溜め息混じりのツカサちゃんの声が聴こえると同時に、わたしを支えてくれている人もホッと小さく息を吐く。


「俺の方がビビった…。階段上ってたら人が降ってきたんだからな」


耳に近いところで聞こえたその声は男の子のもので、ゆっくりと顔を上げると紺色の瞳とバチリと目が合った。

わあ、綺麗な色。鼻筋も通っててホリも深いし肌の色も…外国の人なのかな。
しばらく彼の整った顔に見入ってしまっていると、徐々にその濃い肌色に赤みがさしていくのに気付く。


「…な、んでそんな見てくるんだおまえ…っ」
「(え、ってうわ…!)」


思い切り顔をそらされたと思ったら、グイッと身体を後ろに引かれて今度は違う誰かに後ろから身体を包まれた。


「おいジャッカル!茜助けてくれたのはありがてーけど、惚れるのはダメだかんな!」
「なっ…!惚れるかよ!」
「はあ!?こんな可愛くて良い子な茜に惚れねーとかありえねえ!」
「ど、どっちだよ…」


ツカサちゃんと親しそうに言い争う目の前の男の子は、日本人離れしたお顔をしている。

特に小麦色の肌はすごく健康的で、わたしの病的な肌の白さと比べてみるとその違いは一目瞭然。まるでオセロだ、と可笑しくなって心の中でちょっとだけ笑った。


「てかジャッカル、なんでお前ここにいんの?部活は?」
「生物委員の仕事なんだよ。これから2階の水槽掃除しに行かなきゃなんねえんだ」
「へえー。ま、頑張れよ」
「おう。…ってあー、なんだ。自己紹介しとくか。一応同級だしな」


そう言ってわたしに視線を移し笑った彼の真っ白な歯がキラリと光ったように見える。

なんだろう、例えるなら…そうだ。お伽噺に出てくる王子様。
転びそうになったわたしを助けてくれたし、そんな優しい性格と容姿はまるでそう。


「俺はジャッカル桑原。1年D組だ。ツカサとは家が近所だから、まあこんな感じだ」
「(わたしは夕雲茜です。助けてくれてありがとうございました!)」
「助けたっつーか不可抗力だったつーか…まあ無事なら良かったぜ。それに、同じ1年なんだし敬語じゃなくてかまわねーよ?」
「口説くなよジャッカル」
「これのどこが口説いてんだ!?」


ツカサちゃんとジャッカルくんのやりとりにクスクスと笑っていたら、ジャッカルくんは委員会活動があるといって2階へと消えた。


「茜、どこも怪我とかしてねーか?」
「(うん、大丈夫だよ。それにしても桑原くんって王子様みたいな人なんだね)」
「…え、それマジで言ってンの?」


ビックリしたように目を見開くツカサちゃんに、頭に疑問符を飛ばして首を傾げたら『あのツルツル頭のどこが王子様なんだよ』って何故か呆れられてしまった。