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紳士と友達




「きっとそれは夕雲さんの勘違いです」
「…(えっ)」


全てを読み終えた柳生くんは、クセなのかまたもや眼鏡をクイッと中指で押し上げるとそう言った。
わたしの勘違いって一体どういう…。


「幸村くんが多くの女性から好意を寄せられていることはご存じですか?」
「(教室に行った時、女の子たちに囲まれてたからそうかなとは思うけど…)」
「だからですよ」
「………?」
「幸村くんはあなたのために”友人ではない”と言ったのです」


女の子にモテてるから、わたしと友達じゃないって言った?…どうして?

柳生くんの言わんとしてることが理解できなくて何度も首を傾げていると、柳生くんの背後でガチャリと屋上の扉が開いたのが見えた。


「柳生?…と、夕雲さん!」


現れたのは幸村くんで、その手にはジョウロとスコップ。

屋上庭園のお手入れに来たのだろうけど、気まずすぎる…!
柳生くん助けてー、と彼を見上げてみると口角がわずかに上がったかと思えばすくりと立ち上がった。


「幸村くん、夕雲さんの早く誤解をときたまえ。レディを泣かせては紳士の風上にもおけませんよ」
「柳生…どうしてここに?」
「ゴルフボールをこちらの方へ飛ばしてしまった方がいて探しに来ただけですよ。では、私はこれで。アデュー!」


この雰囲気のままここで幸村くんと2人にされるなんてどうしたらいいのかわからない。


「(柳生くんー!お願いだから行かないでー…!)」


そんなわたしの願いも虚しく、バタリと屋上の扉がしまって柳生くんがいなくなってしまった。

あああ、どうしよう。お友達じゃないって言われてしまった以上は自分から馴れ馴れしく話しかけるのも躊躇われるし、かといってこのまま何も離さないまま屋上から逃げてしまうのもどうかと思うし…。


「あのさ、」
「……っ!」
「柳生が言ってた勘違いって、もしかして…」

「(柳生くんはそう言ってたけど、違うんだよね?わたしが勝手に幸村くんと友達だって思っちゃってただけで…!幸村くんは全然そんな風になんか思ってなかったのに、ごめん。わた、)…ッ?」


急いでメモを書いていたら、その手をパシリと掴まれて中途半端になってしまった。

ビックリして振り向いて、幸村くんを見上げると彼は少しだけ頬を赤くしてわたしを見下ろす。


「…っそんな、泣きそうな顔しないで」


だって、友達だって仲良くなれたって思ってたのに違ったから泣きたくもなるよ。
利き手を掴まれていてメモには書けないけど、その気持ちを込めて幸村くんをジッと見つめていると。


「俺は、夕雲さんのこと友達だって思ってるし仲が良いとも、もっと仲良くしたいとも思ってる」
「………!?」
「そうだな…夕雲さんのこと、名前で呼びたいし名前で呼んでほしいって思うくらいには」


眉尻を下げて微笑む幸村くんは女性顔負けに綺麗だった。

そして何よりも幸村くんのその言葉に驚いて固まってしまい、じゃあなんで友達じゃないなんて…と離してもらった手で書く。

それを見た幸村くんは『やっぱり聞こえちゃってたか…』と呟いて苦笑し、ゆっくりとわたしの隣にしゃがみ込んで花壇の手入れを始めた。


「自分で言うのは嫌なんだけど、俺ってけっこうモテてさ。夕雲さんがC組に来た時に見たと思うけど、ほぼ毎日のようにああやって女の子に囲まれるんだ」


…それはそれでとても大変そうだ。
その証拠に幸村くんは、疲れたように大きな溜め息を吐いている。


「それで、つい一週間くらい前に俺と同じ委員会に入ってて花のこととかでたまに喋ってたりしてた子がいたんだけど…。俺の取り巻きの女の子たちがその子へ嫌がらせをしてたみたいでね」


そんなことがあったんだ…というか女の子たちちょっと怖すぎる。
幸村くんの言葉に小さく頷いて相槌を打ち、その先の言葉を待った。


「俺は別にその子のこと何とも思ってないし、嫌がらせされようがされまいがどうでもよかったけど…夕雲さんは、違う」
「…………」
「夕雲さんが嫌がらせを受けたりするのは嫌だって思って咄嗟に、友達じゃないって言っちゃったんだ…勘違いさせたみたいで本当にごめん」


柳生くんの言ってた意味がようやく理解できた気がする。

その子みたいにわたしが嫌がらせを受けないように、幸村くんはわたしと関わりがないって女の子たちに分からせるために嘘をついたってこと…。


「、…っはあー」


深く大きく息を吐いて、気を落ち着ける。
良かった、本当に。幸村くんがわたしともっと仲良くしたいって言ってくれたことも、すごく嬉しい。


「あと、RINEの返事すぐにできなかったのもごめん。部活が予想以上に忙しくなってきて、元々あまり携帯をよく見る方じゃなかったから気付いてなかったよ…」
「(ううん、全然大丈夫。むしろわたしへの返事なんて二の次で構わないから。幸村くんは部活、頑張ってね!)」

「……ああ。君のそういうところ、俺ほんとに好きだな」


続けて、テニスって楽しい?と書いてる途中で幸村くんが何かを呟いて手を止める。
なんて言ったんだろうと首を傾げて隣の幸村くんを見ると、彼はフフと綺麗に笑って立ち上がった。


「楽しいよ、テニス。今度練習見に来て?俺のテニスしてるところ…茜に見てほしい」
「………!」
「名前呼び…ダメだったかい?」


ブンブンと首を横に振って全力で否定すると、幸村くんはホッとしたように表情を柔らかくする。
本当に綺麗に笑うなあ、幸村くんって。


「茜も、俺のこと精市って呼んでみて?」
「(精市くん)」


頷いて、丁寧な字を意識して彼の名前を書いた。

それを見つめた精市くんは、何故か少しだけ切なそうな表情になり。
そしてすぐに、またふわりと微笑んだ。