テニプリ連載 | ナノ
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初の女の子




放課後、わたしは今まで来たくても来れなかった屋上庭園に足を運んでいた。

幸村くん曰く、現在美化委員会が一番丹精込めて育てている草花が揃っているらしい。
初めて出逢ったあの雨の日に、『今度見においでよ』と言ってくれた幸村くんはそれから何度か屋上庭園に誘ってくれていたけれどなかなかお互いの時間が噛み合わなくて結局一緒に来れてなかった。

まあ、テニス部…というか運動部は特に夏の大会に向けてそれまでは忙しそうだし仕方ないよね。


<一緒に行けなくて本当にごめん。今度必ず何かで埋め合わせさせてほしい>


屋上へ向かっている途中に鳴った通知音に携帯を見てみると、幸村くんからそんなメッセージが。


<本当はきちんと夕雲さんと会って伝えたかったけれど…君の為にもちょっと無理そうだったんだ>


続けて送られてきた言葉に、はて?と首を傾げる。

”君の為にも”ってどういう意味なのだろう。
それを聞こうとしたけれど、もう部活も始まってしまう頃だろうし会話を長引かせるのもよくないと思って『気にしないでいいよ。また今度一緒に見にこようね』と返信して携帯をポケットにしまった。






屋上庭園は予想を遥かに超えて、とても素晴らしいものだった。

白く美しい月下美人に、色とりどりの小さな花をたくさん散りばめたポーチュラカにジニア。
まだ咲いていないヒマワリ、日陰にはユリもある。他にもたくさんの花が植えられていて、思わず嘆息を漏らしてしまうのも仕方ない。

これほんっとうに綺麗だし、すごい…全校生徒にお披露目したほうがいいってくらい。


「(写真、撮っても大丈夫かな)」


さっきしまったばかりの携帯を取り出して、特に綺麗だと思う花々に向けてパシャリとシャッターをきる。

しばらくそうして写真を撮ったり花を眺めていたりしていると、パコーンというインパクト音が聴こえてふとそちらに意識を向けた。


「(………あ、)」


屋上から顔をひょこりと覗かせて下に視線を向けると、見えたのは発色の良い緑色のテニスコート。
そして黄色いボールを一生懸命追いかける人達の姿。

もしかしたら蓮二くんとか仁王くん、幸村くんがテニスしてるところ見れるかも…!
んー、あんまりよく見えない。仁王くんのあの髪型ならすぐ見つけられると思うんだけどな。

ひょいっと更に屋上から身を乗り出して覗き込んでいると。


「おーい。テニス部のイケメン見たさに屋上から落ちましたなんて恥ずかしいからやめとけよー」
「………っ!?」


いきなり低めの女の人の声がして、驚いてバッと振り返る。

金の短髪に、着崩された制服、耳にはたくさんのピアス、細い眉毛。
ど、どうしよう…!見るからに不良っぽい人に声かけられてしまった!


「んな怯えなくてもいいジャン。取って食ったりしねーから」
「(…ごめんなさい。怖いとかではなくてちょっとビックリしてしまって)」
「ふーん。おまえが担任の言ってた声出ない奴か。了解了解」


わたしが書いたメモを摘まんでヒラヒラと横に振った彼女は、さして興味もなさそうにそう言ったあと、口に咥えていた棒付きキャンディーとガリッと噛み砕いた。

というか、やっぱりわたしの事情はほとんどの生徒の人達に知られてるんだ。
先生たちが気を遣ってくれたのだとは思うけど、こんな風にわたしが見ず知らずの人にわたしのことを知られているっていうのは少し嫌だったり。


「てかさ、おまえ大人しそうで男に興味ありませんって感じなのに他の女たちと同じなのな」
「………?」
「だって今だってあれだろ?テニス部にイケメンが多いから、それ目当てでわざわざこんな所から盗み見してたんだろ?」


な、なんてことを言い出すんだ彼女は…!