わたしが持っていた傘をかっさらって、出口まで歩いていき、こちらを振り返る幸村くんを呆然と見つめていると。
「ほら、靴履き替えて。夕雲さんに拒否権はないよ」
「…………」
「早く傘入らないと置いていくよー」
それ、わたしの傘なんだけどな…。
置いて行ってくれてもいいよ、って本当は返事したいけど傘はあれしか持ってきてないし帰りに買い物もしたいから濡れて帰るのは勘弁したい。
優しいのか意地悪なのかよく分からないな、幸村精市くん。
わたしは小さく息を吐いて靴を履き替え、渋々と幸村くんの隣に並んだ。
それから家までの帰り道は、意外と悪いものではなかった。
歩きながらメモを書くのは難しいし、雨も降っていたから表情とか頷くとか簡単な反応しかできなくて一方的に幸村くんが話しかけてくれるような感じになってしまったのはとても…申し訳なかったけど。
幸村くんは、蓮二くんや仁王くんと同じテニス部。
今日は雨で部活が早く切り上げられたから、美化委員である彼は花壇の様子を見に行っててこの時間になったのだとか。
花はわたしも好きだと伝えたくてそれは書いて見せれば、幸村くんはちょっとだけ驚いたような顔をしてから小さく微笑む。
「じゃあ今度見においでよ。俺がこっそり育ててる花があるんだ」
そう言った幸村くんの表情につられて、わたしはニコリと笑って深く頷いた。
そしていつも寄るスーパーの近くまできて、買い物してから帰ると告げて。
別れ際に幸村くんと連絡先を交換して無事に買い物も終えて、やっと家に帰ってこれた。
ちなみに忘れ物だったしおりは柳生くんと偶然同じクラスだった幸村くんに返してもらうことになったので、ちょっとひと安心。
なんだか蓮二くんを初めとして仁王くんといい幸村くんといい、お友達が増えてとても嬉しいんだけど、そろそろ女の子のお友達…できないかなあ。
でも入学して2ヶ月も経った今となっては、女の子のグループに突っ込んでいけるほどの勇敢さは持ち合わせていないし…。
そんなことを悩みながらお風呂に浸かってたら危うく溺れかけました。
そのことをひょこりとSNSで呟けば『アホや』とたまに絡む関西弁のフォロワーさんに笑われた。
〈声出るようになった?〉
〈ビックリし過ぎて声出るどころか死んじゃうかと思ったよ〉
〈それは大袈裟ぜよ。でも、残念じゃ〉
〈そういえば幸村くんって知ってる?〉
〈知っとるが…幸村がどうしたんじゃ〉
〈今日一緒に帰ったんだ。仁王くんと同じテニス部って聞いたから知ってるかなと思って〉
〈はあ?一緒に帰ったって…〉
それからRINEで仁王くんとそんなやり取りをして、仁王くんから送られてきた文を読んでる途中でその日は寝落ちしてしまった。
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