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愛する家族と幸せな日々



「ママー」
「まんまぁ」


1人はわたしの足に抱き着き、1人はわたしの腕の中で笑った。

世界で一番大切で愛するトムとの間に生まれた、2つの命。
その幸せを噛み締めるように、わたしは2人にキスを贈った。




***



「パパまだねてるの?」
「の?」


わたしを見上げてくる オニキスの瞳に、この子達のパパを思わせて小さく微笑んだ。

ホグワーツを卒業したトムと結婚してから、5年の月日が流れていた。
1人目の子、ヒカリを産んだのは今から4年前で2人目の子であるウィルを産んだのはそれから2年後のこと。

現在ヒカリは2歳、ウィルはもうすぐで1歳。
育児はとても大変で、軽くノイローゼになりかけてた時期もあったけどそんなものどうってことない。

親バカだと思われるかもしれないけど、この子達は本当に目に入れても痛くないくらい可愛くて大切な存在だ。


「パパは昨日遅くまでお仕事だったみたいだから、もう少し寝かせてあげよう?」
「むー、パパともあそびたい!」
「たいー」


トムは今、ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術という教科の教授として勤めている。
本当はホグワーツに住み込みのはずなんだけど、トムはわたし達が心配だと言って今は週4のペースで家に帰ってきていた。

ホグワーツではちょうどテストが終わったらしく、持って帰ってきた答案を昨夜は遅くまで採点をしていたのを思い出す。


「じゃあちょっとだけ覗いてみようか」


そう言って笑いかければ、膨れていた顔をパアッと笑顔にさせる。
本当に可愛い、わたしの宝物。




***



静かに寝室へ入ると、ベッドに埋もれるトムの姿が見えた。


「しー、だよ」
「しー…」


人差し指を口に添えると、それを真似するヒカリの頭を撫でる。
ウィルが声を出してしまわないかとヒヤヒヤしたけど、腕の中で一緒にトムを見つめていた。

お仕事疲れで申し訳ないけど、これもこの子達の為だよトム!
寝ているトムに近付いて顔を覗けば、我が夫ながら本当に整った顔で、まるで1枚の絵のようにすら思えた。

閉じられた瞼はピクリとも動くことはなく、珍しくトムが熟睡してる。
罪悪感を感じながらもそのまま近付いていき、腕に抱いてたウィルにトムの頬へとチュッとキスをしてもらった。


「あーずるい!ヒカリも!」


ボフンとトムの上に乗っかったヒカリにギョッとしていると、トムの呻き声が聴こえて。


「…なに、してるんだもう…」


寝起きの掠れた声、開かれた黒の瞳。
そんなトムの顔をぺちぺちするウィルを抱っこし直してわたしは肩を竦めてみせた。


「あー、ごめんねトム。この子達がどうしてもパパと遊びたいっていうから…」
「はあ、本当に君は子供たちに甘いんだから。…ヒカリ、重いぞ」
「ヒカリもいっしょにねる!」
「もう起きるよ。ほら、こっちへ来い」
「わあい!」


起き上がったトムがヒカリを抱っこしてそのままベッドから出る。

子供たちに甘いのはトムも一緒じゃない。
ふふ、と小さく笑いを零しているとチュッと唇に感じる熱。すぐ目の前にはしたり顔のトム。


「おはよう、カヤ」
「…おはよ、トム」
「いつになっても君は顔が赤くなるな」
「いつになってもわたしはトムにドキドキしちゃうからね…」
「………カヤ、」


再び顔を近付けてくるトムに気付いてギュッと目を瞑るけど、いつまで経っても期待した感触はない。

もしかして、からかわれた?
素早く目を開けると、ヒカリがトムの口を小さな手で覆ってるのが目に入って思わずキョトンとしてしまう。


「ヒカリにも、ちゅー!」
「…仕方ないな」
「くちにもー!
「口はダメ。それはママにだけだ」
「むー。ママは口にしてくれるときあるもん」
「…は。カヤ、今の話は本当か?」


何の後ろめたさもなく頷けば、トムは眉間に皺を寄せた。

わたしにだけ、っていうトムの気持ちはすごく嬉しいけど何も自分の子供とわたしに区別をつける必要はないと思うなあ。しかもヒカリは女の子だし…。
なんて思いながら、ごめんね?と呟けば大きな溜め息を吐いたトムに『今夜覚悟しておいて』とだけ言われる。


「パパこわいね、ウィル」
「あーうー」
「ウィルも怖いって、パパ」
「ふん」


鼻で笑ったトムがウィルに手を伸ばすと、ウィルはいやいやと首を振ってわたしの胸に顔を埋めてきた。

それに少しショックを受けているトムが面白くて笑い、それにつられてヒカリも笑う。
わたしが夢見た幸せな未来がここにあった。



愛する家族と幸せな日々
(今夜はトムの好きなもの作ってあげようかな)


結婚から5年後のお話



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