セブルス短編 | ナノ
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学生の頃に抱いていた密かな恋心が卒業しても変わらず、胸の奥に根付いていた。

同じ寮の先輩だったあの2人組が”あの人”に過度な悪戯をしているのを知っていたのに、わたしは一歩が踏み出せず。
わたしに出来ないことをすんなりとやってのける、あの人が愛している赤い髪の彼女を、とても尊敬していたし同時に心底羨ましく思っていた。

わたしより先に卒業した彼らは上手くいったのだろうか。
そんなことを想いながらわたしも卒業し、親と教師の勧めで闇払いになり、ダンブルドア校長の所属する不死鳥の騎士団へと入った。


『リリー・ポッターよ。貴女は確かナマエだったわよね!髪がとても長くて綺麗だったから覚えてるわ』


そう言って美しく微笑む彼女は、リリー・”ポッター”。

何故、どうして。彼女はスネイプではないの?どうして彼を虐めていた彼と結婚しているの?

…それなら今、あの人は、スネイプ先輩はどこで何をしているの。




***



「―…杖を置け」
「先輩の方こそ」


最後に聞いた時より幾分か低くなった彼の声。
元から黒をイメージさせるような人だったけれど、真っ黒なローブを羽織って頭にフードを被っている彼はより闇に馴染んでいた。

闇払いと死食い人。
どちらのものか分からないモノが死屍累々と散らかっている。

こんな状況なのに、なんでこんなにも胸が躍るのだろう。
ああ、目の前にあれだけ恋い焦がれたスネイプ先輩がいるからか。
数年ぶりの再会に笑顔なのは、わたしだけ。


「貴様じゃ勝てない」
「そうかもしれないですね」


こんな風に言葉を交わすのも、数年ぶり。

ふふ、と小さく笑いが零れると表情は見えないはずなのにスネイプ先輩の眉間に皺が寄るのが容易に想像できた。


「先輩、残るはわたしだけです。殺すのはそちらにとって不利益ですよ」
「…どちらにせよ、死ぬぞ」
「逃げてほしいんですか?」
「………」


どこまでも闇に染まりきれない、優しい人。
大嫌いな人達が属するグリフィンドールのことが無条件で嫌いなくせに、階段で転んだわたしにエピスキーなんてしてくれるくらい。

こんな時までそんな優しさを見せる彼に、少しだけ呆れて。
コトリ、と地面に杖を置いた。


「何を、」
「殺されてもいい、スネイプ先輩になら。好きにしていいですよ」
「…っバカなことを!」


スネイプ先輩が絞り出すような掠れた声を出すのと同時に、彼の後ろに黒煙と共に増援の死喰い人が現れる。

これでもう、逃げるも逃げないもなくなってしまった。


「おや、もうコイツだけかい?派手にやったんだねえ」


フードも被らず、クルクルの黒髪を振り乱して狂気的な嗤い声を上げるのはベラトリックス・レストレンジ。
彼女が無傷でここにいるということは、あちらの騎士団も既に壊滅しているのだろう。


「あとはこいつだけだろう?とっとと殺しちまいな!それともお前さんにはできないかい?」


ニヤリと笑ってスネイプ先輩の周りをスキップしながら回るレストレンジは、わたしに視線を投げると同時に杖を向けた。

次、あの女が口を開けばきっと緑色の閃光がわたしの身体を貫くだろう。
だけど生憎、わたしはスネイプ先輩に殺されるのは良いにしてもこんな奴に殺されるのは勘弁願いたいところ。

先程手放したばかりの杖にチラリと目を向けて、それを手に取る機会を窺っているとスネイプ先輩がわたしとレストレンジの間に立った。


「…こいつは情報源になる。持ち帰ってそれを吐かせる」
「フン。まあ、それならそれであたしが痛めつけながら吐かせてやろうじゃないか。それじゃあ暫しお眠りな、お嬢さん」


そしてレストレンジが唱えた呪文により、わたしの意識は深い闇へと落ちていった。




***


次に目が覚めた時、わたしはたくさんの死喰い人たちに囲まれていて四面楚歌状態だった。

そして目の前には、こいつらのボスであるヴォルデモート卿がいて、地べたに這い蹲っているわたしを冷たい瞳で見下ろしている。


「さて、貴様は籠の中の鳥だ。騎士団の情報を素直に吐けないというのなら、それ相応の苦しみと絶望を味わってもらうことになる…」


傍らの大蛇を撫でながら、底冷えするような声音で言い放つヴォルデモートを見上げて笑う。

スネイプ先輩がこちら側なら、わたしがこれからどうするかはもう決まっている。


「吐きますよ、何でも。わたしがあちら側に与する理由はなくなった」
「…ほう。しかしそれで己の命を見逃してもらえるとは思っていまい?」
「ええ。…宜しければ、わたしにも印を刻んでいただけませんか?」


少し痺れる手を動かしてローブに隠れていた腕を出す。

視界にいるスネイプ先輩は、これでもかというほど目を見開いてとても驚いていた。


「どういう心境の変化だ?」
「こちらに、どこまでも共にありたいと願う人がいる。理由はそれだけです」


そう言ってスネイプ先輩に向けて微笑むと、ヴォルデモートはその人が彼であることを理解したようだ。
レストレンジがギャーギャー文句を言うのをピシャリと一喝したヴォルデモートは、愉しそうに笑うと、スネイプ先輩の腕を引っ張ってわたしの目の前まで連れてくる。

なんていう表情をしてるんですか、先輩。
哀れむような悲しむような堪えるような。

色んな感情が入り混じったスネイプ先輩の表情に少し呆気にとられていると、ヴォルデモートはわたしの顎を強く掴んで顔を上げさせる。


「こ奴の管理はセブルスに任せよう。怪しい行動を見せたら即、殺せ」
「ー…承知、しました」


スネイプ先輩の声は少し震えていた。

後悔なんてするはずがない。だってどんな形であれスネイプ先輩の傍にいられる。
わたしにとって闇祓いも死喰い人も関係ない。
これからは、スネイプ先輩の行く道がわたしの生きる道になるのだから。




「…お前は馬鹿だ」
「バカでいいですよ。それでスネイプ先輩の傍にいられるなら」
「本当に、馬鹿だ…っ」


わたしの腕に刻まれた闇の印に触れながら、吐き捨てるようにそう言ったスネイプ先輩にわたしはニッコリと笑いかけた。


「わたしは、どんな事があってもこれから先、先輩の傍から離れませんからね」


たとえ、愛するスネイプ先輩に穢れた血だと罵られたとしても。
そんな言葉を飲み込んで、優しい彼に寄り添った。



ただあなたの傍に
(好きになってほしいなんて望まない)


ぶっちぎりでアンケート1位のセブルス強い



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