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紹介された日 (1/5)




朝目覚めると、隣にヴォルデモート様はいませんでした。
ふあ、と小さく欠伸を噛み殺してベッドから降りると昨日食事をした部屋まで戻ります。


「気分はどうだ」


椅子に腰かけて読んでいる本から目を離すことなくわたしに話しかけてくるヴォルデモート様。

それが少し寂しく感じて、わたしは彼の膝の上へと頭を乗せました。
また撫でてもらえると期待したのですが、頭に触れたのは冷たく硬い触感。


「(…特に何か変わったことはありません)」
「そうか。…ミア、」


今日は触ってくれないのですね。
それがけっこうショックで落ち込んでいると、名前を呼ばれたので顔を上げます。

するとヴォルデモート様はわたしの顔をグッと掴んで、顔を近付けてきました。
力はそこまで強くなかったので痛くはありませんが、一体どうしたのでしょうか。


「おまえ、元は人間か?」
「(…え、どうして…っ!)」
「…やはりか」


ヴォルデモート様は、本当にすごいです。

どうしてわたしが元々は人間であったことが分かったのでしょう?
そのようなことは一切お話した覚えはないはず…。


「そういうところだろう」
「(そういう…?)」
「そのやけに人間らしい反応、行動、表情。どれを見ても蛇ではなく人間の"それ"だ」


カチャンと金属音がして、それからヴォルデモート様はやっとわたしの頭に乗せていた本を取り払ってくれます。
そしてヴォルデモート様は優雅に片手にはティーカップを持ち、もう片方の手をわたしの頭に乗せました。


「それは呪いか?」
「(いえ、たぶん違うと思います)」
「…では何だ?」
「(ヴォルデモート様の仰る通り、わたしは元は人間でした。しかしそれは前の世での話なのです。人間であるわたしは既に死んでいますし…今は蛇として生まれ変わっているのだと思います)」


蛇もなかなか楽しいです、とヴォルデモート様の手にすり寄れば彼はカップに口をつけたまま黙ってしまいました。

何か失言をしてしまったのかもしれません…!
わたしは慌てて口を開いて謝ろうとしましたが、ヴォルデモート様が急に立ち上がった為に開きかけた顎が押し上げられ口が閉じてしまいます。


「おまえが人間であれ蛇であれ、分霊箱となり私の魂を宿している以上は…私からはもう逃れられないぞ」
「(願ったり叶ったりです!わたしはヴォルデモート様のお傍にいたいですから)」
「…変わった奴だな、ミアは」


ヴォルデモート様は目を見開いた後、呆れたように溜め息を吐きますが、少しだけ目元や口元が柔らかくなったような気がします。

初めて見るようなそんな彼の表情に、わたしもなんだか胸が温かくなりました。


「今日は死喰い人を集めた会合がある。そこでおまえを紹介しよう」
「(ですいーたー…)」
「今から3時間後、またこの部屋へ戻ってこい。この屋敷の敷地内ならばどこへ行っても構わん」
「(ヴォルデモート様と一緒にいます)」


立っている彼の足に頭を寄せますが、少し経って首を横に振られてしまいました。


「…私は所用で少し出る。さすがにおまえは連れていけぬから留守番だ」
「(う、分かりました…)」
「いい子にしていろ」


ヴォルデモート様は小さな力でペチリとわたしの下顎を叩きます。

一緒にいれらないなんてとても残念です…。
ですが彼が言うように、わたしは身体の大きな種類の蛇ですし人前に出ればきっと怖がらせてしまうでしょう。
ヴォルデモート様が帰ってくるまでの3時間、大人しくお留守番しているしかないようですね。


「腹が減ったらネズミでも探せ。屋敷の中にはいないだろうが外には山ほどいるだろう」
「(ネズミは…あの、)」
「おまえは蛇だろう?ミア」


ニヤリ、とヴォルデモート様の口角が上がります。
わたしが元は人間だと分かっても、今のわたしは蛇。あくまで扱いは変えないということのようです。それはそれでいいですが…ちょっと意地悪なような気もします。

せめて食べ物だけでも慣れ親しんだ物をくだされば、と思いますがこれは我儘ですね。これはもう我慢しましょう!
ただネズミの形のままでは絶対に食べ(れ)ませんけど。これだけは譲れません。

わたしがモヤモヤと悩んでいる間に、ヴォルデモート様は黒い煙になってその場から消えてしまいました。


「(…やっぱり、ヴォルデモート様は魔法使いみたいですね)」


呆然して呟いて、3時間何をして過ごそうと考えながら用意されていたらしい朝食を食べました。