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拾われた日 (1/5)




思えば、短い人生だったと思います。

小さい頃から身体が弱くて、同い年の子達と同じように外で走り回ることはできなくて。
真っ白で、少し薬品の匂いが鼻につく病室がわたしの居場所で。
その日は、いつもより胸がとても苦しくなって、呼吸もどんどん浅くなったんです。

嗚呼、わたし…死ぬんですね。

いつも否定していたそれをその間際に受け入れたら、ほんのちょっとだけ気が楽になりました。




さて、上記で述べたようにわたしは死んだはずなのですがパチリと目を開けます。
サラサラと風に揺れる草が顔に当たって擽ったい。
どうやらわたしは倒れているみたいです。

どうにかして起き上がろうと、いつものように手足に力を入れてみると視界は低いままで、だけど視界はスルスルと前に動いていきます。


「シャー…」


どうして、と声に出したつもりが口から出るのは空気を吐き出すような音ばかり。
これはまさか…もしかしたらわたしは、人の形をしていないのでしょうか。

すぐにでも自分の今の姿を確認したくなりましたが、こんな森の中に鏡なんてあるはずがないです。
鏡がないのであれば水を。
きっと水たまりでもあれば水面に映る自分の姿を確認できるでしょうから。

わたしはまた手足を動かすのと同じ感覚で前に進んでいき、とりあえず水を目指しました。




水を探してどのくらい経ったでしょう。
わたしはだんだん疲れてきてしまい、ちょうどいい日陰を見つけて身体を休めていました。

それにしても、風がとても気持ちいいです…。
あ、そういえばちょっとお腹もすきました。
でもこの調子だとご飯らしいご飯には当分はありつけそうにないですね。


「シュー…」


残念です、という言葉もまた空気のように口から漏れます。

人間の言葉をきちんと発せないとなると、何かの動物である可能性が高い。
今のところ不便は感じませんが、手足という手足も無さそうです。

一体わたしは何なのでしょうか。


「ー…何が残念なのだ?」
「……っ!?」


ビックリしました。

いつの間にか誰かが近くに立っていたようです。
それよりも、この人は今、確かにわたしの発した言葉を理解して返事を?
まさか動物と話せる特殊能力を持った方なのでしょうか!


「(お腹が減ったのですが、しばらくはご飯にありつけそうにないのです)」


興奮して、早口になってしまったかもしれません。
相も変わらずわたしの口からは空気音が漏れるだけでしたが、隣に立つ人からは小さく笑うのが聞こえました。


「私と共に来れば、美味い飯にありつける」


やっぱり!彼にはわたしの言葉が伝わっています!

これはチャンスだと思いました。
わたしの言葉を理解し、おまえに衣食住を提供してくださる方が現れたのです。
これを逃すわけにはいきません。


「(あなた様に付いていきます!どこまでも)」


顔を持ち上げて、コクコクと何度も頷くとわたしの頭に大きな手が優しく乗せられます。


「食い意地の張った蛇だ。…では、行くぞ」


次の瞬間、グルグルと何かに引きずり込まれるような感覚がしばらくあり。
ギュッと瞑っていた目を開けると、目の前には大きなお屋敷がそびえ立っていました。
ここが、彼のお家ということですね。

というか、彼はさっきわたしのこと、さらりと蛇と言っていました。…となるとわたしは蛇になっているということですね。
何とも複雑な心境ではありますが、死んでしまったにも関わらずこうして2度目の命を頂けているのですからワガママは言えません。


「付いてこい」


スタスタと前を歩いていく真っ黒な彼の後をスルスルと追いかけて、わたしはそのお屋敷の中へと入りました。