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人になった日(1/3)






黒色の短いレースのワンピースに黒の薄いパンストを履き、さらにその上には黒色のカーディガン。


「わー、全身真っ黒です」
「髪は…適当に結っておくか」


着替え終わったわたしを上から下まで値踏みするように見回した後、ヴォルデモート様は杖をサッと振ります。
するとわたしの長い髪の毛がシュルシュルと勝手に持ち上がり、見事にポニーテールが出来上がりました。

魔法って本当にとっても便利です…!
そんなことまで出来るなんて、朝寝坊しても用意に時間を掛けずに遅刻回避できたりしそうですね。

首の後ろから背中にかけてサラサラと揺れるポニーテールを触って楽しんでいると、ヴォルデモート様も準備をするために一度私室へと入っていきます。
少ししてガチャリと扉の開く音が聞こえて振り向くと、そこには。


「…ヴォルデモート様?」
「なんだ」
「ん?えっと…あれ、ヴォルデモート様ですか?」


部屋から出てきたのはヴォルデモート様はヴォルデモート様ではありませんでした。

黒い艶のある髪は金色に輝いていて、目もあの綺麗な赤ではなく澄んだスカイブルー。
ですが部屋に入ったのは間違いなくヴォルデモート様で、出てきた彼も名前を呼ばれて反応をしていました。
となると、この目の前の金髪碧眼の容姿をした彼はヴォルデモート様…ということなのでしょうか?


「私が元の姿のまま外に出ると厄介なことになるからな。名前はエリックと偽る、決してヴォルデモートなどとは呼ぶな。分かったな?」
「あ、はい。ヴォ、えっと…エリック様!」
「…はあ、様付けも無しだ」
「ええ!?それは無理です…!」
「…………」
「うっ、…分かりました。努力します…っ」


ヴォルデモート様とお呼びしてはいけない上に、様付けも禁止となるとわたしは彼をエリックと呼ばなけれはならないようです。

…間違えて呼んでしまう自信しかないのですが、彼がヴォルデモート様だとバレてしまえば大変なことになります。
これは自分との厳しい戦いになりそうです!

グッと胸の前で握り拳を作って気合いを入れていると、何をしているとヴォルデモート様が呆れていました。
それにしても…んー、なんだかとても違和感があります。
確かに変身したヴォルデモート様もかっこいいのですが、やっぱりわたしはヴォルデモート様の姿が1番好きです。


「移動には煙突飛行を使う。フルーパウダーを一掴みし、行き先を間違えずに言え」
「煙突飛行…ふるー、ぱうだー?」
「私が先に行く。同じように真似て追いかけてこい」


"ノクターン横丁"
暖炉に入ったヴォルデモート様は緑色の粉を一掴みして、行き先を呟きエメラルドの炎と共に消えてしまいました。

一瞬、ヴォルデモート様が燃えてしまうのではないかとすごく焦りましたがここは魔法というものが存在する世界だということをすっかり忘れていました。


「粉を掴んで、暖炉へ…」


ヴォルデモート様がしたように、緑色の粉を左手に握り、暖炉の中へと恐る恐る足を踏み入れました。煤がすごくて少し咳き込みながら、ヴォルデモート様が言っていた行き先を思い出します。


「えっと、確か…”ノクターン横丁”!わっ」


緑の粉を振り落すとぶわりと炎が燃え上がり、わたしを包み込みました。
炎なのに熱くないなんて不思議です。

呑気なことを思っていればグルリと視界が回転して、次の瞬間にはポイッと暖炉から投げ出されてしまいました。


「―…遅い」


そんなわたしを受け止めてくださったのはヴォルデモート様で、わたしは顔を上に向けて彼を見上げます。

腰に回された腕にぞわりと何かが身体中を駆け巡り、ビクリと一瞬震えているうちにヴォルデモート様にヒョイと抱き上げられて立たされました。

わ、せっかく頂いた洋服が煤だらけです…!
慌ててそれを払っていると、ヴォルデモート様が小さく溜め息を吐いて魔法で綺麗にしてくれます。


「わあ、ありがとうございます…!」
「…逸れずついてこい」
「あ、待ってくださいーっ」


スタスタと歩いて行ってしまうヴォルデモート様の後ろを早足でついていっていると『美男美女のカップルは絵になるねえ』と誰かが呟く声が後ろ手に聞こえました。

カップルだなんてそんな畏れ多い…。
確かにわたしはヴォルデモート様をお慕いしているのでその勘違いもなんだか嬉しく感じてしまうのは否めませんが、ヴォルデモート様にとってはとんだご迷惑でしょうし…。


「っぶふ…!」
「…何をしている。きちんと前を見て歩け」
「うう、すみません…」


考え事をしていたら前が見えてなかったようでヴォルデモート様の背中にぶつかってしまいました。
振り返った顔は見知った彼の顔ではなく、やっぱりとんでもなく違和感があります。


「ここで用を済ませる」
「えっ…わあ!」


今まで人通りの少ない暗い道を歩いていたはずですが、すぐ目の前にはたくさんの人々と色々なお店が並んでいました。

ここはお買い物通りなのですね。とても素敵です!
通りを行く人々は殆どの人がローブを着ていたり大きな帽子を被っていたりと、見るからに魔法使いの人達が。


「とっとと買い物を済ませて帰る。”これ”の時間はそう長くは持たんからな」


そう言って金色の髪の毛を指さすヴォルデモート様。

なるほど、ずっと変身していられるというわけではないのですね。
そうなればヴォルデモート様の言う通り出来る限りで早くお買い物を済ませてお屋敷に帰らなければいけません。


「何が必要だ?」
「えっと、何着か服を…あとは何か暇を潰せるような本?とかでしょうか」


またいつヘビの姿に戻ってしまうかは分かりませんが、魔法使いの方々が読む本はとても気になります。
できることならこの魔法世界のことについての知識もつけたいですし…。

チラリと窺うようにヴォルデモート様を見やると、彼は少しだけ考える仕草をしてからわたしを見下ろして、左腕を差し出してきました。


「………?」
「掴んでいろ。おまえは小さくてすぐ見失う」
「あ、えっと…良いのですか?」
「…逸れられても面倒だ」


小さな溜め息を吐いたヴォルデモート様のお言葉に甘えて、差し出された彼の腕に控えめに自分の腕を絡めます。

容姿が別人なのが残念に思ってしまいますが、ヴォルデモート様の優しさは本物なのでとても嬉しいことでニヤついてしまいそうです。


「何やら楽しそうだな、ミア」
「はい!前の世ではこんな風に誰かとお買い物をすることなんてなかったですし、こういう所に来るのも実は初めてなのです」
「…そうか」
「ふふ、あなたと出逢ってから初めてがいっぱいで…わたし幸せです」


エリック、という知らない名前はもう呼びたくなくて”あなた”と呼びます。
ニッコリと笑いかけると、ヴォルデモート様はピクリと片眉を上げてからフイッとわたしから目をそらしてしまいました。