小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


人になった日(1/3)






ヴォルデモート様は最近、とても多忙のようです。
いえ、いつも忙しいとは思うのですが最近は特にです。

あまり人気(ひとけ)のなかったこのお屋敷も、近頃はよく真っ黒な人達の出入りが頻繁にありました。
わたしはヴォルデモート様が出掛けていない時はほぼお傍にいさせてもらっているので、その理由はよく分かっています。


「ぐ、ああ…っ」
「これで貴様も正式なる闇のしもべだ」
「あ、ありがたき幸せです!我が君」


1人、また1人とその左腕には闇の印と呼ばれるものが焼きついていきます。

毎日のようにたくさんの人々に刻まれていく印は、髑髏に蛇。
詳しい説明はされていないのですが、きっとあの印はヴォルデモート様が部下の方々を完全に使役し尽くすためのものなのだと思います。


「(とても痛そうです…)」
「あの程度を耐えられない奴など部下には必要ない」


今の方で午前中は終わりなのでしょう。
わたしとヴォルデモート様以外いないお部屋で、彼は静かにソファへ腰を沈めました。


「(ヴォルデモート様、聞いてもいいですか?)」
「…なんだ」
「(あの闇の印とは一体どのような効果があるのでしょうか。ただ肌に焼き付けているだけではありません、よね?)」


わたしが問うと、ヴォルデモート様は少し伸びた前髪を華麗にかき上げてからご自分の隣の空いたスペースとトントンと叩きます。

ここへ来い、ということのようです。
わたしはそこへ身体を移動させて、ヴォルデモート様にくっつきました。


「おまえの言う通り、あれはただの印ではない」
「(やっぱり!それではどんな魔法がかけられているのですか?)」
「あれに触れることで部下へ招集の合図を送ることができ、私が直接触れれば激しい苦痛を伴うようになっている」


なるほど。それならばヴォルデモート様にとってとても有益な印だということですね。
まあ、そもそもヴォルデモート様はご自分に有益であることしかしないとは思いますが。

それにしても、そんな印を作り上げてしまうなんてヴォルデモート様は本当にすごい魔法使いさんです!
他に何かヴォルデモート様が作った呪文などはないのか聞いてみると、スッと瞳を鋭くさせて睨まれてしまいました。


「ミア、いつからそんなに魔法に興味を示すようになった?」
「(元からとっても興味はありましたよ。でもヴォルデモート様がお出掛けになっている時はリドル様とお話する機会が増えたので、それで…)」
「…気に入らないな」
「(え、今なんと?)」


聞き返しても、ヴォルデモート様は黙ったままです。

わたしは頭の上にハテナを飛ばしながら、黙ってしまった彼からの反応を待ちました。
少し経って、ヴォルデモート様は小さな溜め息を吐き、赤い瞳でわたしを見ます。


「今後はおまえも連れていくことにする」
「(ヴォルデモート様の外出にですか?)」
「そうだ」
「(え、嬉しいです!ヴォルデモート様と一緒にお出掛けできるなんて…)」
「おまえにとっては楽しいものにはならないだろうな」


喜びも束の間、ヴォルデモート様は僅かに口角を上げてそう言いました。


「―…マグル狩りをしに行く」


ヴォルデモート様の言葉に、わたしは再度ハテナを浮かべます。
そういえばわたしがヴォルデモート様の魂を宿していただいた時も、マグルがどうとか言っていたような気がしました。


「(マグル、とは何でしょうか?)」
「………」
「(ヴォルデモート様?)」
「はあ。何故それを先に教えてないのだ奴は…」


大きな溜め息を吐いて眉間を揉み解すヴォルデモート様。そんな表情もとてもハンサムで、見目麗しいです。

暫しヴォルデモート様に見惚れてしまっていると、それに気付いた彼がわたしの下顎にトントンと触れました。


「マグルとは魔力を持たない人間のことを言う」
「(魔法が使えない人、ということですね?)」
「そうだ。私の目的は、マグル生まれの魔法使い・半純血の魔法塚いの穢れた者共を根絶やしにし、残る純血の魔法族達は私の支配下の元、この魔法界は新たな時代を創り上げること」

「(…何故、)」


ヴォルデモート様はそこまで、そのマグル生まれや半純血の魔法使いを忌み嫌っているのか。
疑問の言葉は知らずして口から発してしまっていたようで、ヴォルデモート様の眉間にキュッと皺が寄ります。


「何故…。私は特別であり、そして純血こそが魔法使いを総べる者に相応しいからだ。そして私は全ての人間がいずれ迎えるであろう”死”すらも克服し、永遠に存在し続ける」


その為の、おまえだ。
そう言って、紅い瞳をうっとりと細めてヴォルデモート様はわたしに触れます。

永遠の命。
それの為に、ヴォルデモート様は殺人を犯し、自らの魂を引き裂いてその一部を…わたしに。
きっと、ヴォルデモート様の思っていることや考えていることを全て理解することもそれを変えることも、とても難しく、そして不可能に近いのでしょう。


「(ヴォルデモート様、)」


自分の持つ思想の元、たとえそれが世に言う罪であり悪事であっても自分の思うままに事を成すヴォルデモート様。

ただ、それでもわたしは。


「(わたしは、ずっとお傍に)」


彼の罪に目を瞑り、これから先も共に在ると決めたのです。
生まれ変わり、この世界で独りになってしまったわたしにとってヴォルデモート様は大切でかけがえのない存在なのですから。

ヴォルデモート様は少し目を見開いて、それから小さく『当たり前だ』と呟くように言いました。
そしていつものようにわたしの頭に手を乗せて…。


「っ、!?」
「(な…!)」


その瞬間、ピカッ!と強い白い光が部屋中を照らし、その眩しさに目を瞑ります。