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拾われた日 (3/5)




彼と一緒に辿り着いたのは何やら怪しい雰囲気の漂う地下室。

ここに来る道のりで驚いたことと言えば、すれ違う人達はみんな彼に対して頭を下げたり跪いたりしていたこと。
彼が相当な権力者であることが分かります。もしかしてどこかの国の王様だったりするのでしょうか。

なんてことを考えながら地下室の中へ入ると、雰囲気同様、中もとても怪しいものでした。
床には複雑な魔法陣が描かれていて、周りには何に使うのか予測できない物がたくさん散らかっています。


「怯えることはない。おまえにはこれから、私の魂の一部をくれてやるだけだ」
「(魂…の?)」


彼の言っていることを理解しようにも難しい。
心の中が不安でいっぱいになってきます。

わたしの身体がすべて部屋の中に入りきると、バタン!と後ろの扉が勢いよく閉じて身体が跳ねました。
初めて彼を見た時や食事をしている時には感じなかった、この感情…。
暗闇の中で何かの準備を黙々と進める彼を、初めて"怖い"と感じました。


「名はあるのか?」
「(へ、あ…ミアといいます)」
「野生のヘビにも関わらず名があるのも珍しい。飼いヘビだったか?」
「(いえ、野生だと思います)」


思わず人間だった頃の名前を名乗ってしまいましたが、彼は少しだけ考えて、それから顔を上げます。


「…ふむ。まあいい。ミア、そこの円に入れ」


そこの、と指で示されたのは赤色で描かれた小さな円。
わたしは意外と大きな身体のヘビだったらしく、円から身体がはみ出てしまい少しだけ恥ずかしくなりました。

彼は蝋燭に火を灯すと、部屋の隅に置いてある小振りの箱へと細長い木の棒を振ります。
するとその箱の蓋がギィーと音を立てて開き、中から何かができました。


「……っ!」


ふわりと宙に浮かびながら出てきたのは、人間。
手足はだらんと重力に従って力無く垂れ、目は閉じられたまま。

まさか、あの方は死んで…?
いえ、今確かにピクリと指先が動くのが見えました。
あの人はかすかに生きているようです。


「―…こいつが"贄"だ」


棒を上に向けて持ち、宙に浮かぶ人を操るかのように動かす彼。
そもそも人間が空中に浮いているという時点で不思議です。
もしこれにタネも仕掛けもないのであれば、彼はもしかして魔法使い…なのではないでしょうか。

彼は”贄”と呼ばれた人を無造作に床に放り投げると、床に打ち付けられた人は小さく呻き声を上げます。


「(何を…、)」
「このマグルの命を以てして分霊箱を作り上げる。ミア、食べずに待て。私が殺さねば意味がない」


食べないです、食べるわけないです…人間なんて。
形がとかそういう問題じゃない。
例え先程のネズミのように形を分からなくされても、殺すなんて、食べるなんてできるはずがないです。

でも彼はさっき言いました。私が殺す、と。


「さあミア。気を楽にしろ」
「(…こわい、です)」
「怖がることはない。しかし、生物に施すのは初めてになる。痛みや苦しみがないとも言い切れないが…」
「(い、痛いのも苦しいのも嫌ですよ…っ)」
「まあそう喚くな。このヴォルデモート卿の魂を分け与えられるのだ。これほど光栄なことはあるまい。…とはいえ、ヘビには分からないか」


ここで初めて知ることができた、彼の名前。彼は、ヴォルデモートと言うらしい。

そのことに思考を逸らしているうちに、ヴォルデモート様は何かを唱え、そして視界が眩しく緑色に染まります。
つい先程まで絶え間なく聞こえていた人の呻き声がピタリと聞こえなくなりました。


「始めるぞ」


ヴォルデモート様のその声と共に、わたしは息苦しくなり。そして意識がどんどん薄れていきます。
そんな意識の中で目に入ったのは、光の宿らない暗い瞳をこちらに向けて絶命している人の姿。

あの人を殺したであろうヴォルデモート様は、悪い人なのでしょうか。
意識が完全に沈む間際、ヴォルデモート様に目を向けると彼はわたしの頭にそっと触れてくれました。

殺人を犯した手なのに、それはとても優しく感じたのです。