小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


拾われた日 (2/5)




お庭もさることながらお屋敷の中もとても広く、豪華です。

キラキラと輝く金色のシャンデリアに真紅の絨毯。
ところどころに飾られている絵画や、色とりどりの花が生けられた高そうな花瓶。
颯爽と前を歩く彼は、とってもお金持ちな方のようです。

周りの様子に呆気にとられながらも身体を進めていくと、彼はひとつの扉で立ち止まりました。
立ち止まっただけなのにギィーと音を立ててひとりでに扉が開きます。

自動ドアのあるお屋敷なんて、なんてハイテクなんでしょう!


「何やら興奮しているようだな」


心地よい彼の声は少し愉しそう。
それはもう、こんなに豪華でハイテクなお屋敷に入るのは初めてですもの。

返事をする代わりに彼の長い足へと顔をすり寄せると、頭を撫でてくれました。
これ、とても気持ちよくて好きです。
思わず目を細めていると、彼が部屋の中へ入っていくのでわたしも後をついていきました。


「(…ふかふか!)」


暗い赤色のソファはとても肌触りが良く、それにふかふか。
彼の許しを得る前にそのソファへと乗ってその感触を楽しんでいると、わたしの前に立つ彼は顎に手を添えて何かを考え込んでいます。


「(どうかしましたか?)」


こてん、と首を傾げるような動作をしてみましたが上手く動いたかは分かりません。
フードを被る彼の表情を見ることは叶わず、わたしはただ反応を待ちました。

それからすこしだけ経ち、彼は『食事にしよう』と呟くように言ってフード付きのローブを脱ぎます。

露わになった彼の姿に、わたしは目を奪われました。
それは彼がとてもハンサムな方だったことと、それから瞳の色が…綺麗な赤色に輝いていたから。
肌は青白く、なんだか以前の自分を見ているよう。


「こちらへ来い」


呼びかけられた言葉にハッと我に返って、わたしはソファからするりと床へ身体を滑らせます。
彼が椅子に座ったのを確認して、わたしもその近くへと身体を落ち着けました。

ん、なんだかとっても良い匂いがします。
クンクンと匂いを嗅いで、その匂いの元へと身体を動かしていくといつの間にか彼の膝の上まで来てしまっていました。


「…食べづらいではないか」
「(すみません。とても食欲をそそられる匂いがしたのでつい…)」


そう答えてから身体を下ろそうとした時、チラリと目に入ったのはテーブルの上に並べられた食事たち。

一体いつ、誰が、この数々の料理を運んできたのです!?
彼のことはこの部屋に入った時から見てましたが、そんな素振りは一切ありませんでした。
本当に、このお屋敷は摩訶不思議です。


「おまえの食事も用意してある」
「(本当ですか…!嬉しいです)」


嬉々として楽しみに待っていると、コトリと床に置かれたのは皮を剥がされてツルツルの皮膚を晒した1匹の大きめな…ネズミ。

ああ、そうでした。わたしは蛇なのでした。
そうと分かってはいても元は人間。
目の前の"コレ"を食べるには少々、いやかなり勇気がいります。

ジーッと動かないネズミを凝視して数分、空腹を通り越して何やら体調が悪くなってきたわたしはネズミには手をつけずにクルリと丸くなりました。


「食べないのか」
「(…あの形でなければ食べられそうです)」


我儘言ってすみません、と付け加えて目を伏せると彼は小さく唸って床のネズミを持ち上げます。
そして細長い棒を取り出して小さく何かを呟いています。

何をしているんだろう、と首を伸ばして様子を窺うとお皿の上にはスライスされたハムのようなものが並んでいました。


「これで食べれるだろう」
「(これは何ですか?)」
「先程のネズミだ。切れば分からんだろう」
「(…ありがとうございます)」


彼はまた床に皿を置いて、カチャリと食事の手を再開させます。

スライスされていてもネズミはネズミ。
しかし彼がここまで手を煩わせてくれたのですから、食べないというのは無礼千万でしょう。
チロリ、と舌先で舐めて…それから口に含みました。


「ふっ、気に入ったようだな」
「(美味しいです…!)」


ネズミって美味しいのですね、初めて知りました。
しかし、美味しいと分かってもやはりネズミの姿のままでは食べられそうにありませんが。

お腹も膨れて少し眠気が襲ってきてウトウトしていると、彼はわたしの顔をペチペチと叩いて起こされて。


「これからやることがある。移動するぞ」
「(やること、ですか…?)」


コクリと頷いた彼は、この部屋を出ていきます。
わたしも眠気に負けないようにと、時々わざと彼の足に頭をぶつけながら後を追いました。