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人になった日(3/3)






屋敷に帰ってくると同時に変化していた魔法が解け、ギリギリだったようだと息を吐く。

ミアは先程買ったものがすでに自分の部屋へと運び込まれている様子を見て何やら興奮しているようだった。
魔法すごいです、と連呼して頬を赤く染めるミアをジッと観察する。


「…………」


あの時、あの本屋でミアに言った”魔力がないと言い切れない”という言葉に嘘はない。

良くも悪くも、あいつには私の魂が宿っている。
そこから結びついてミアに魔力が備わり始める可能性もゼロではないだろう。

如何せん、命あるものを”箱”にするのはミアが初めてだ。そしてあいつがその最後でもある。
私の分霊箱であるだけにあらず、それでいて魔法が使えるとなれば私にとってのミアの価値がより大きなものになるのは間違いない。


「ヴォルデモート様!」
「−…なんだ?」
「…ヴォルデモート様。ヴォルデモート様…!」
「鬱陶しいぞ。何だというのだ」
「お出掛けしている間はお名前で呼ぶことができなかったので…。えっと、それが少し寂く思ってしまって…その反動です」
「…くだらない」
「あとはヴォルデモート様の姿がやっと見れたのも嬉しいです。やっぱりヴォルデモート様はヴォルデモート様でないと!」


照れたように笑うミアを目の前にして、私の右手が自分の意思とは無関係なところでピクリと動いた気がした。

また、この感覚。近頃から感じるようになった、この言い表せない感情。
その原因は十中八九、目の前にいるミア。


「ヴォルデモート、様…?」


この私が、たかが女1人に何を思うことがある。

今はまだそれが何かなど分からないままでいいと思ってはいたが、こうも頻繁にあるとストレスだ。

思わず舌打ちをしたのと同時に、部屋のドアが控えめにノックされる。
次いで扉の向こうからこもって聴こえた声はオリオン・ブラックのものだった。


「…ミア、」
「っはい、ヴォルデモート様」


感じていた不快感をそのまま顔に出していたのだろう。
私が名を呼べば、ミアは安堵したような様子で表情をふわりと緩める。


「これから暫くは部屋で大人しくしていろ。魔力云々の話は後回しだ」
「わ、分かりました…」
「買ってきた本でも読んで待っていろ。それでも退屈ならば奴を連れてきてやる」
「奴…?」


ミアが首を傾げたが、ここでこいつと呑気に話していられるほど今の私は穏やかではない。穏やかだったことがあるかどうかはさて置きだ。

身を翻しミアに背を向けると、か細い声で名を呼ばれる。
それに反応することもなく、部屋を出るとオリオンが目を丸くして私を見ていた。


「…珍しい表情をしているね。タイミングを見誤ったかな?」


今の自分がどういう表情をしているかすら、皆目見当もつかない。

ああ、苛立つ。腹が立つ。不愉快だ。


「ああ、そうだ。報告なんだけどね、騎士団の連中を2人捕えたよ」
「−…!そうか」
「おや。ふふ、いつもの君に戻ったみたいだね」


ある意味、タイミングが良かったのかもしれないな。
この苛立ちを容赦なくぶつけられるモノが現れたのだから。



***



耳を劈くほどの悲鳴や絶叫は止み、静寂の訪れた空間でただの肉塊と化した”モノ”を見下ろす。

それらに抱く感情など、何もない。
哀みも怒りも何も。
私の邪魔をする者たちの末路がこれなのだ。

ゴミの片付けを部下に命じ、自室に戻れば、ミアは与えた部屋ではなく私のベッドで眠っていた。


「………」


ベッドの端に腰をかけて、ミアを見やる。
薄く開いた唇から寝息が漏れ、その度に心臓のある位置が上下するのを確認した。

暫くそうしているとミアの目がうっすらと開かれ、私の姿を捉える。


「…怪我、しているん…ですか?」
「……返り血だ」
「そ、ですか…。よかった…」


口元に笑みを浮かべたミアはそのままスッと瞳を閉じて、再び眠りに入っていく。

訳の分からない感情は相変わらずだった、が。
何故か今は、それを不快に思うことはなかった。