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人になった日(2/3)






瞼を閉じていても感じた眩しさは徐々に引いていき、瞑っていた目を開けます。
あれは何の光だったのでしょうか。


「はあーびっくりしましたね…」


目を擦りながら、先程と変わらず目の前にいるヴォルデモート様を見下ろしました。

…ん?見下ろしました?
どうあがいてもヘビであるわたしがヴォルデモート様を見下ろすなんてことはありえないはずなのに、確かにわたしは今ヴォルデモート様より上に…。


「―…ミア、」
「へ、えっ…!?」


ヴォルデモート様の両肩に置かれた手は、誰の手?
周りを見回しても、どこを見ても、このお部屋にはわたしとヴォルデモート様の2人だけです。…ということは、まさか。


「いつまで私の上に乗っている」
「は…す、すみません…っ!」


ズササッと後ろに身体を引けば、支えを無くしたわたしの身体はぐらつき、そのまま床に倒れてしまいました。

ちょっと、待ってください。これは一体どういうことなのでしょう。
倒れた身体をそのままに、ヘビにあるはずのない”手”を天井に向けて伸ばしてみれば確かにそこには5本指の人間の”手”がありました。

握って、開く。その手はきちんとわたしの意思通りに動きます。


「わたし、人間の姿に…?」
「そのようだな」


さっきと打って変わり、今度はわたしを見下ろしているヴォルデモート様がそう答えてくれました。

何故、いきなり?何かきっかけになるようなことがあったのでしょうか?
それとも…ヴォルデモート様があまり驚いていないところを見るに、まさか彼がわたしにそういう魔法をかけた、とか。


「その姿を見るのは3回目だ」
「…え!そうなのですか!?」


わたしの記憶上ではヘビになってヴォルデモート様に出会ってからは一度も、人間に戻ったなんてことはなかったはずですよね…。

びっくりしたついでに身体を起き上がらせて自分の姿を見てみると、人間であった時のわたしのままの身体。
唯一、今着ているこの白いワンピースは見覚えはありませんでしたが胸元に見える傷痕が見えて思わず顔を顰めます。

この身体にこんなに大きな傷を刻んでも、わたしは死んでしまった。
結果論にはなってしまいますが、どうせ治らなくてこれほどの傷が残るなら、手術なんて受けなければ良かったなんて今はちょっと後悔しています。


「ミア、こちらへ来い」
「はい。…わっ」


ヴォルデモート様はわたしの身体を軽々と抱き上げて、立たせてくれました。

わあ、こうやってお隣に立ってみるとヴォルデモート様はやっぱりとても背が大きいです。(わたしが小さいだけかもしれませんが)
なんだか、こうして人間の姿で面と向かって話すのは緊張しますし照れくさい感じがしました。

ヴォルデモート様の綺麗な赤に見られている。
それがとても恥ずかしくなってきて、わたしは目を逸らしますが、ヴォルデモート様の指に顎を掴まれてしまいそれは叶いません。


「私から逃げることは許さない」
「に、逃げるだなんてそんなことしません…っ」
「ならば何故私から目を逸らす」
「…どうしてでしょう。ヘビの姿の時とは違って、恥ずかしくなってしまって」
「相変わらず、おかしな奴だ」
「………っ」


小さく微笑むヴォルデモート様の顔があまりにも綺麗で、ドキリと胸が高鳴ります。
ああ、どうしましょう。ドキドキし過ぎて胸から心臓が飛び出てしまいそうです。

身体全体に伝わる程の鼓動に苦しくなって、わたしは胸の前でギュッと手を握り締めました。


「わ、わたし…何故人間の姿になっているのでしょうか」
「…私が人間の姿のミアを見たのはいずれも夜だった。だが今は知ってのとおり昼。どういう因果でおまえが今その姿になったのかは私にも分からない」


ということは、ヴォルデモート様がわたしに何か魔法をかけたわけではなさそうです。

何が起因になったかは分かりませんが、とりあえず人間の姿になったことで不便になることはないと思いますし特に問題はなさそうですけど…。


「あの、ヴォルデモート様」
「………?」
「わたし、人間…ですが今まで通りヴォルデモート様のお傍にいてもよろしいですか?」


恐る恐る、ヴォルデモート様の顔を見上げて問えば彼は深い溜め息を吐いてからわたしの額をコンと小突きます。

地味に痛くてじわり、と生理的な涙が視界をぼやけさせました。いつもみたいに下顎ペチペチの方が良かったです…。
そんなことを思っていると、ヴォルデモート様が再びわたしの顎を掴んで顔を動かせなくされました。


「人の話を聞いてなかったのかおまえは」
「…えっと、?」

「私から逃げることは許さん、と言ったはずだ」


すうっと心の奥底まで見透かされてしまいそうな彼の瞳に見抜かれて、息を呑みます。

…人間の姿での支障、見つけました。
ヴォルデモート様とこうして一緒にいるといつも以上に胸がドキドキしてしまうことです。

嬉しいやら恥ずかしいやら何やらでぐちゃぐちゃの感情を整理させようと目を回していると、ヴォルデモート様はわたしから手を放しました。


「また奴らを集めてその姿のおまえを見せておかねばならないな」
「お手数をおかけします…」
「食事は変わらずネズミでいいな?」
「ええっ?それはあんまりです…!確かに美味しいですけど…」


冗談だ、と無表情で言うヴォルデモート様に少しだけ怒りたい気持ちになります。
だってまさかヴォルデモート様が冗談なんて言うとは思わないですし、冗談には聞こえなかったですし。


「この部屋に私以外が勝手に入ってくることはないが、とりあえず自室に籠っていろ。生活に必要なものを揃えさせる」
「あ、それならわたし自分で買いに行ってきますよ。部下の方々にお手を煩わせてしまうのも申し訳ないですし…」
「見知らぬ土地で、1人で買い物に行って何の問題もなく1人で帰ってこれる自信があるのならば許してやろう」
「……ごめんなさい。軽率でした」


しょんぼり、肩を落として反省しているとヴォルデモート様は部屋を出て行こうとします。


「外出用の服を持ってこさせる。それに着替えたら出掛けるぞ」
「っえ!ヴォルデモート様と一緒にですか?」
「…お前に拒否権はないが」
「拒否なんてしないです、嬉しいです!ではわたしは自室で待機していますね…!」


あまりの嬉しさに興奮してちゃんと喋れていたかは分かりませんが、伝えるだけ伝えてわたしはすぐに自室へと入りました。

ヴォルデモート様とお買い物なんて、とっても楽しみです。
ボフン、とベッドにダイブしてニヤけそうになる顔を枕に埋めて隠します。

ヘビの姿では到底叶うことのなかったこと。
やっぱり人間っていいですね。



(Date became human)


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